彼が思うより彼はポーカーフェイスが得意でない、と最近よく思う。いや、実際のところ緊迫した局面でその思い切りの良さだとかが発揮されれば心強いことこの上ないとは思うのだけれど、とりわけ「喜び」とか「照れ」とか……を、わりと隠すのが下手だ。
 最も、人のことはいえない。
 手首で光る華奢なブレスレットには、金色のチェーンにお花の小さなモチーフが付いている。ほんのさっき、試着してから値段を見てぎょっとした私を見て、店員さんとなにやら話したかと思うと、霊幻さんは小さなハサミでタグを切ってしまった。

「えっ!な、何で」
「似合ってんぞ」

 ありがとうございました、と愛想の良い声に見送られながら呆然と店を出る。ブレスレットをした手をとられて歩き出すと、寒空の下で金属の冷たさがきりりと肌に触れる。指先は信じられないほど熱かった。
 プレゼントしてくれたってことでいいのだろうか。いつも饒舌なくせにこういうときだけは何も言ってくれない。顔を真っ赤にしながらじっとそれを見ていると、不意に霊幻さんが振り返った。

「なんだよ、照れてんのか?」
「て、て、照れて……照れてるし、嬉しいし、お礼言わせてくれないから、……」

 ありがとうございます、とやっと言えた言葉に薄く微笑む顔を見ていると、やっぱり大人だなあとか、かっこいいなあとか、思ってしまうものだ。そう思ってもらいたいがために彼が、私の前で格好つけたがっていることも、同時に何となく感じている。
 霊幻さん、耳が赤いですよと、告げないほうがいいだろか。言えるほどの余裕は、残念ながらまだない。



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