『助けて』。
 そんなメールを、忍足が恋人の友人佐波に送ってしまったのにも、話せば長いわけがある。

「かくかくしかじかやねん」
『なるほど。恋人きーちゃんへのクリスマスプレゼントをみつくろってたら、お姉さんにやんわり止められたと』

 メールを送ってから一時間後、ようやくきた返事は『死ぬの?』の三文字、いや四文字だった。
 相談する相手を間違えたんかなと、忍足の目の前は一瞬にして暗くなった。

「まとめてくれておおきに」

 それでも、頼ると決めたのは自分なのだから。意を決し電話をかけ、今である。

『私を選ぶとは、お目が高い』
「消去法やけど、佐波さんしかおらんねん」
『消去法やけど』
「消去法やけど」

 まず学校で桐子が連れ立っている友人は、忍足にとって些かハードルが高かった。なんやかんやと冷やかされるのが目に見えていたし、どうにも気恥ずかしい。他に彼女と自分の共通の知り合いとなると同じ部活のメンバーだが、それはそれでハードルが高い。そもそも誰も彼もまともなアドバイスをくれる気がしなかった。
 ……――長い長い沈黙が、二人の携帯電話を往復する。

「で、女の子やしアクセサリーがええかなって思ってんねんけど」
『なんで一回喧嘩売ったの』

 忍足に悪意はない。強いて言うならちょっとした小ボケだ。
 ドスの利いたツッコミが返ってきたが、その後に続いた『どんなのしようと思ってたの?』という声に機嫌を損ねた様子はなかった。

「写真送るわ」

 一旦通話を切って、画像を添付したメールを佐波へと送る。すぐさま折り返しの電話がかかってきた。

『高い! 重い! ださい!』

 三重苦! という叱責が忍足を耳を刺す。言葉の選び方は大分違うが、姉からも同じようなことを諭されていた。
 送った画像は三枚。一つ目はマーガレットとミツバチの意匠が可愛らしい腕時計(数万円)。二つ目はシンプルなシルバーリング(しかし値段は同じく数万円)。そして三枚目の値段は相応な、ピンクの石がついたブレスレット(曰ください)。

「……率直な意見おおきに」
『とりあえず見る雑誌間違えてるよ。お姉さんのやつでしょ? そりゃ桁が違う。最後のは論外。なにこれパワーストーン?』

 呆れたような佐波のため息と、憂いを帯びた忍足のため息が重なる。
 ――前途が暗いなぁ。

 忍足のセンスは世間一般とそうかけ離れたものではない。
 現に曰く重くて高い品は――彼の恋人の趣味かどうかは置いておくが――そう悪いものでもなかった。しかし彼も大人びた雰囲気ではあるが中学生三年生。相応の値段のものを探しだそうとすると、年頃の女の子へのウケはあまりよろしくないものになる。彼が好むシンプルな意匠や女の子らしく華美な品は、値段でランクがはっきりと出てしまうのだ。


▼ 


 と、一度目の作戦会議は、散々な結果だった。そうして迎えた二度目の作戦会議。
 このまま通話しているだけでは埒が明かないと、氷帝と青学の丁度中間に位置する駅で待ち合わせた二人はそのまま駅構内のビルを見て回ることにした。平日の夕方、雑貨屋には同じく学校帰りの女子中高生が肩を寄せ合いあれが可愛いこれが可愛いと盛り上がっている。
 流石に男一人ではキツかったな。と忍足が隣の少女に感謝したのもつかの間。雑貨屋の一角に収まった二人の間には、目には見えない高く堅牢な壁がそそり立っていた。その名を『性別』という。

「だから、なんで、そんなにチャームがでかいの選ぶ」
「きりちゃん、ゴロッとしたアクセサリー好きやん。ちっちゃいやつだと見えへんし」
「ネックレスにそれはない」
「じゃあ、こっち」
「女児ピンク」
「佐波は、どれがええと思うん」
「ネックレスがいいなら、これとか可愛いんじゃない?」
「……こっちは?」
「いや、だから……」

 相互理解の道は遠い。
 そもそも二人が描く『伊丹桐子』の像にはズレがある。忍足と並ぶ『伊丹桐子』は八割方スカートを履いているけれど、佐波の知る『伊丹桐子』はその逆。どちらともが彼女なのだが、その中間点は見つかり難い。

 小一時間ほど口舌の限りを尽くしたのち、二人は小休止を取ることにした。同じく駅構内のチェーンのカフェに腰を落ち着け、アイスティーで口を潤す。十二月も中頃に差し掛かり、外は肌をつんざくような寒さだ。しかしビル内にはきっちり暖房が効いていたし、なにより静かな、けれど確かな口舌戦は二人の体温を上昇させていた。
 こうして一息ついたところで、頭も冷えた。「アクセサリーから離れてみるのはどうかな」とつぶやく佐波の声も穏やかだ。

「確かになあ」

 返す忍足の声も、平時のようにのんびりとしたもの。彼はもう一度ストローに口をつけ、いくつかの候補を思い返す。

「ルームフレグランス、が切れたってゆうてたから同じのん」
「いい匂いだったね」
「クッションがへたってきたってゆうてたから」
「同じの」
「……似たようなの」

 再びの沈黙。(勿論店内は賑やかな様相をとっていたけれど。)

「悪く、ないんじゃない?」
「置きにいってる感、ない?」

 ルームフレグランスもクッションも、よく言えば安牌。悪く言えば無難。
 折角のクリスマスなのだから、少しでも恋人を喜ばせたい。忍足は世に何万といる男たちと同じように、そう思っていた。

「でもダサいアクセサリーよりはマシ」

 そして世に何万といる男たちと同じように、恋人の好みというものを測りかねている。

「染みるわぁ」
「アクセサリーって、なんていうんだ。付加アイテムだから」

 頭を抱える忍足に、佐波は言葉を選びつつも説明をする。
 いわく、服や靴と違ってあえて付けるものなのだから、好みでないものを身につけるのは他のものと比べて精神的負荷が高い。

「付加だけに」
「……きりちゃんみたいなこと言わんで」
「一緒にいる時間が長いと似てくるんだよ」

 佐波の言うことも最もである。忍足は「まあ、確かになぁ」と頷く。彼は他のテニス部員と比べてアクセサリーを身につける方ではないが、それでもいくつかの気に入りはあるし、『あえて』という気持ちはよくわかった。
 わかると同時に、ハードルの高さに気が重くなる。恋人の喜ぶ顔を思えば、プレゼント選びも楽しいものではある。けれどもしもその顔を少しでも曇らせてしまったら――。

 一人で選んでいたら、曇らせてしまうことはなくとも一瞬言葉を選ばせてしまっていただろう。今日一日でそれが痛いほど理解できた忍足は、「佐波さんに頼んでよかったわ」とちいさく謝辞を述べた。
 「だから他のものよりも気合入れて選ばないとな。頑張ろう」とあっさり釘を刺されしまう。

「せやな……あと、なんか一回ボケとかなって思うねんけど」
「すべったら私まで巻き込み事故じゃん!」





「いい加減にしろ忍足ィ!」
「なんでや! ほんっま自分とは趣味あわへんわ!」

 三度目の作戦会議。今度はもう少し街中に足を運んだ二人。以前の和やかな会合はどこに行ったのか。静かな口舌戦を越え、ほとんど喧嘩状態にあった。
 忍足が選ぶ品は佐波がボロカスにけなし、佐波が選ぶ品には忍足はノーコメント。ごくたまに趣味があったと思えば、桁が二つ違う。(「忍足くん、座って」「はい」)
 暖房の効きすぎた店内と打てば返すような返答に、二人の言い争いは苛烈さを増した。

「その顔で生まれたことを感謝しろ!」
「おおきに!」

 揉めに揉めて二時間半。二人は、第三者の協力を扇ぐことにした。





「おっはよーございます忍足さん!」
「こんにちはー」

 その週の日曜日。
 忍足にとって他校の後輩であり、恋人の友人の恋人というなかなかややこしい関係の桃城武。そして彼に相談を受けていた、氷帝の先輩で恋人の友人である知京仁花。
 二人の協力者を加え、事態にも好転が見られるのではと思っていたのだが。

「忍足くんそういうとこあるー」
「忍足、ほんっとそういうとこあるな」

 刺されるナイフが二本になっただけのことであった。
 今までで一番大きなショッピングモールに足を運ぶも、忍足が選ぶ品選ぶ品この調子だ。

「そうっすかー? 俺結構いいと思いますけど」

 唯一肯定してくれるのは後輩の桃城だけだが、これまでのことで男女の間の壁を理解した忍足の表情は晴れない。
 リンゴのチャームがついたピンクゴールドのネックレスを手に、彼の柳眉は微かに顰められる。
 
「食べもんが、ええんちゃうの?」

 先ほど知京と佐波がキャイキャイと見ていたのは、ハンドメイドのネックレスだった。食べ物や雑貨のミニチュアがついていたそれと、今自分が手にしているものの違いが忍足にはよくわからなかった。むしろこちらの方が可愛いのではないだろうかとさえ思う。

「ピンクゴールドって」

 失笑。知京のそんな表情が忍足に突き刺さる。

「男の人ってそういうの好きなんだね」
「女の子の可愛いは半分もわからへんわ」

 恋人と買い物したときでさえ、「可愛いー!」とはしゃぐ彼女のへの相槌は半分は嘘だった。残り半分は、「可愛いー!」と楽しそうにしている姿が可愛いなあと思っていたので本当。
 そもそも自分が選んでいる品ですら、忍足には可愛いとは思えなかった。男にはこの手の小物類を『可愛い』と感じる素養がないのだと思う。ただこういう女の子らしいものを身につけている桐子の姿は、可愛いだろうなと素直に感じられた。
 どうやら、それではダメらしい。

「桃城くん、こういうのは?」
「んー。キレイっすけど、先輩こういうの好きっスかね」
「難しい」

 日に日に迫るXデー。桃城たちも頭を悩ませているようだ。

「忍足くん。やっぱりアクセサリーは諦めよう」

 忍足は忍足で、手にしていた猫のイヤリングをそっと棚に戻される。

「これもあかんの」

 もう言い返す気力も湧いてこない。しかし心を折りにくるはずの佐波の声は、小さくひそめられていた。

「きーちゃん、越知さんの相談受けてるじゃん」
「ああ」
「月とかネコとかのアクセサリーめっちゃ探してた」
「あっ……」

 意図せずにおそろい。

「それは避けたいなぁ」

 私はパンダが好きー。と店を突き進む佐波を追いつつ、忍足は目線を商品棚に走らせる。どれもこれも同じようにしか見えないし、どんなものを彼女が好むのかさっぱりわからない。
 ――食べ物の趣味ならわかるんやけどなあ。

「これ可愛いね」
「ほんとだ、キレイ!」

 心中でため息をつく忍足を置いて先人を切っていた佐波たちから、楽しげな声があがる。

「あーでも、コンパクトミラーはこないだ買ってたね」
「そういえば一緒に買った。これはアクセサリーケースみたいだよ」

 後ろから覗き込めば、二人が手にしているそれは忍足にもキレイだなと思えた。
 つややかな表面は淡い水色のグラデーションで、ところどころ貝殻の裏側のような光沢が散らされている。彼女の深緑のバックからこれが取り出される光景を想像してみれば、案外悪くない画だった。
 手にとって見るとそれは思うよりも小さく、忍足はつい、恋人の小さくて柔らかい手を思い出してしまう。無性に会いたくなる気持ちを、ぐっと抑える。
  
「これええんちゃう?」

 上向きになった気分のまま提案するも、――「可愛いよねー。でもピアスくらいしか入らなそう。ネックレスとかイヤリングは……」と言葉を濁されてしまう。言われてみればこの厚みとサイズではネックレスは絡んでしまうし、イヤリングはものによっては入らないだろう。
 当たり前だけれど中学生である桐子の耳に、ピアスホールは空いていない。
 肩を落としそうになる忍足に、「でも、アクセサリーケースってのはいいんじゃないかな」と佐波の慌てた声が届く。

「そういえば、なおす場所があらへんってゆうてたわ」

 活路が見えたような気がして、俯きそうになっていた忍足の背中に力がこもる。
 「容れ物ってすごい忍足くんっぽーい」とのたまう佐波の声にはまだ少しの毒が含まれていたが、それでも表情は晴れやかだ。
 
「うわあ、小賢しい」

 しかし再び後頭部に刺さる失笑。そんな知京の隣では、桃城が「それいいっすね!」といいたげに瞳を輝かせていた。
 
「桃城、後でなんか奢ったるわ。知京先輩はなんで俺にだけそんな厳しいんですか」

 それから桃城のプレゼント候補である手袋を見て、本日も小休憩。結局、プレゼントは買えていない。このモールではコンパクトサイズのアクセサリーケースしか見当たらなかったのだ。
 各ペア喉を潤しながら、前半戦のまとめを話し合う。

「さっきの手袋可愛かったね」
「俺もいいと思うんすよねー! 朽原先輩なんか寒そうだし」
「どんなイメージ?」

「アクセサリーケース、いいと思うけど」
「中々ないんやな」
「とりあえず飲み終わったら別のとこ行ってみようか」
「桃城くんも、もうちょっと見てから決める?」
「そうっすね!」

「お手数おかけします」
「いえいえ。でもどんなんがいいかな。きーちゃん結構アクセサリー持ってるから、ボックス型で……赤のビロード張りとか言わないでね」
「青のビロード」
「やめよう」
「でも、もう買っとたら笑えるな。欲しいゆうてたし」
「そんときはニベアのクリームとか入れといてもらいなよ」

 こうして体力も回復――主に知京と佐波のだが――したところで、四人はもうひとつのショッピングセンターへと足を運んだ。土曜日の七時半、夕食時の為か客数はそう多くなかった。
 先ほどのモールよりは価格帯が上がってしまったので多少の不安はあったが、探し始めて数分、それはすぐに払拭されることになる。

「佐波、さん」

 忍足が示した方向には、ジュエリーショップがあった。ショーケースには上品かつきらびやかなアクセサリーが並び、店内の区画は赤い絨毯がひかれている。中高生にはなかなかの敷居の高さだ。

「……いや、あそこのは」
 
 重い、と佐波が言い切る前に、忍足は躊躇いなくショーケースに近づいていく。

「おい!」
「すいません。これ、ケースだけって買えますか」

 そして物怖じせずに店員の女性に話しかけた。指差したのは、モーブピンクのアクセサリーケース。恐らくはプレゼント用のケースなのだが、店員は「ええ、大丈夫ですよ」と優雅に微笑む。忍足はほっと安堵の息をついた。
 それから値段をちらりと確認して、「包んでもろてもええですか?」と笑顔を作ってみせる。店員は丁寧に説明をしながら、鮮やかな手つきでリボンを掛けてくれた。

「――ただいま」
「はっや」

 あっという間に小さな紙袋を片手に戻ってきた忍足に、佐波はぎょっと目をむく。まだ河岸を変えて十分も経っていない。 

「ケースだけならここでも手頃なお値段やし、重くはないやろ」

 黒地に金文字が刻まれた紙袋を、満足げに揺らす。

「そうですね。でも、予定してたのより随分小さくない?」
「こちらは小ぶりですけど、半分にはネックレスがお一つ、もう半分にはピアスや指輪などしっかり収納できますよ。旅行なんかにもお持ちいただけるものとなってます――やって。うちの学校、なんでか海外研修とか多いしな」
「らしいね」
「それに――」

「なになに? 忍足くんもう買ったの?」
「即決ッスねー!」

 言いかけた言葉を、別の店を見ていた知京たちが遮る。

「さすが『千の技を持つ天才』!」
「なんやそれ。……まあええわ。俺のんは終わったし、次は桃城の探しに行こか」

 しかし忍足は特に気にした様子なく、のんびりと歩き始める。他の三人も後ろをついて行ったが、時間も時間なので桃城たちは足早に彼を追い抜いていった。それからあれでもないこれでもないそういえば手の大きさがわからない、と楽しげにプレゼントを探す。

「なーんかどれもしっくりこないんッスよねー」
「やっぱりさっきのがよかったかな」

 ただ佐波だけは忍足の隣に並び、「それに、なんだよ」と先ほど続きを促した。

「あー、別に大したことじゃ」
「ここまで付き合ったんだから言えよ」

 言葉を濁して逃げようとするも、ばっさりと退路を断たれる。気の強い子やなあ、と目を伏せ、忍足は渋々ながら言葉を繋げた。

「……きりちゃん、おかんからもろたネックレスあるやん」
「あったっけ?」
「あるんです。で、まあ……それくらいは、ちゃんと置き場所あったほうがええかな、って」

 特別なアクセサリーの中でも一等特別なもの。
 それがむき出しに置いてあるのは、彼女の本意ではないんじゃないだろうか。アクセサリーケースをプレゼントすると決めてから、彼の頭の片隅にはずっと、そのことが引っかかっていた。

「っほー。まめたりくん」
「やめてよ」

 関心しつつも煽るような口ぶりに気恥ずかしくなりながらも、手にぶら下げた紙袋が彼女の笑顔に変わる瞬間を思い浮かべ、忍足の唇には柔らかな笑みが浮かんだ。

「ほら桃城たち先行ってるでざつなみさん」
「やめてよ」

 




 こうしてひとまずのプレゼントは準備できた。帰宅した忍足は自室で足を伸ばし、深く息をつく。ちょっと味わったことのない充実感に、彼の表情も自然と緩んだ。
 ――しかし一息つけたのもつかの間。そういえば、予算がもう半分残っとるやん。
 こういうものが値段の多価ではないのは分かっていたけれど、なんとなく意気込みとの帳尻が合わないような。そんな複雑な気分になる。
 これだ! というものを見つけて、らしくなく浮かれてしまっていたようだ。 

 傍らに投げ出していた携帯電話に手をやり、 再度佐波へと救援メールを送、りかけて、しかしその手はピタリと止まった。
 『もう一回助けて』と打ち掛けていた文章を消して、『今回はおおきに。助かりました』と打ち直す。
 のこり半分は、自分の力で選んでみよう。それでちょっと外してしまっても、まだ来年も、再来年も、きっとある。
 
「よっしゃ。やるでー!」

 声に出して意気込んてみるも、やっぱり多少の不安は拭えなかった。
 とりあえず『きりちゃんの指輪のサイズ知ってる?』と追加のメールを送る。





 いよいよクリスマス当日。空っぽのアクセサリーケースととっておきのもう一つを持って、忍足は恋人の元へと向かう。
 空気は冷たく、空は灰色に近い水色。待ち合わせ場所に近づくにつれ、本当にこれでよかったのかと、蛇の首のようにぐんにゃり不安が鎌首をもたげる。
 キザすぎるだろうか。本当に喜んでくれるだろうか。スベったら、どないしよ。
 恋とは随分と人を臆病にさせるらしい。決断一つ一つに迷って、余裕なんてありはしない。

 ――俺のキャラと、ちゃうねんけどなあ。
 それでもそんな自分が案外嫌いじゃないのは、恋人桐子と過ごす毎日が、楽しくて仕方がないから。そんな自分でも、彼女は好きだと笑ってくれるから。
 自分のロマンチストっぷりも、どうしても一度ボケておかなければと思う気質も、きっと彼女なら知って受け入れくれるだろう。
 そう思えば、足取りも再び軽くなった。







by サバイカ


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