桃城よりも十センチは高いだろう、見上げるようなその背中を追って、二人は屋上までやってきた。12月に入ったばかりだというのに、既に秋の空気はどこへやら、冬風吹きすさんで寒い。

「ここで弁当を食べるってのはなかなかリスキーなのではないかね乾くんよ」
「それではあそこにしよう、ここなら風も来ないだろう」

と、乾の提案により、屋上入口前で弁当を広げることになった。ちょうど置き捨てられたのだろう、机がいくつもまばらに放置にされていて、テーブルセットには困らない。で、普通に飯食うだけかよ、と思いつつ。弁当箱を広げる。椅子に腰かけて落ち着いたのか、朽原の心配はもう一点だけになっていた。
「こんなことして、佐波さんは大丈夫なのだろうか」

そう、その一点だけである。佐波と朽原はいろいろあってそれなりに仲がいい。気心知れた仲というやつである。が、故に、朽原はこれでもかというほどよく知っているのである。佐波が、乾のことが好きだということを。意味わからんぐらい好きだということを。多分朽原が佐波と全く知り合いじゃなくともこの学校にその事実を知らないのは乾貞治ぐらいじゃないかというこの事実を。いや二人は付き合ってるらしいけれど、だというのに、この二人の間の距離感はとてつもなく自然で、全然付き合っていない風に見えるのだ。ああ、今日も大根の葉と油揚げの混ぜご飯がおいしい。
 心配はさておき、乾は黙々と飯を食らっている。覗いたお弁当はのり弁だった。てり焼きチキンとミニトマトが乗った、それからゆでブロッコリともやしのナムル。それらは彩りよく、かつオーソドックスで男子中学生の腹を満たすのに十分なラインナップだ。彼の家の弁当はなかなか古風らしい。もっとも、ただの彼の好みなのかもしれないが。

「で、話って、何だね?」

朽原がウインナーに箸を突き刺しながら切り出すと、乾は行儀よく口の中の食べ物を飲み込んでから口を開いた。

「明日、空いてるか?」
「明日?…空いてるけど…それが?」
「よし、じゃあ明日、いけふくろうの前に13時だ。……来てくれるかな?」
「いいとも〜〜…じゃねえよ!何でだよ!中身が抜けて落ちてるんだよ圧倒的に!」

 ついつい二つ返事をしてしまったが、何がどうしてそうなるというのだ。いいかげん話の本筋を教えろと叫びだしそうな朽原に、乾はそうだな、と相槌を置いてから言った。

「佐波へのクリスマスプレゼントを選びたい。お前がこの土日空いている確率が、97%だったので誘った」

何の確立だよ、なんでお前がそんなこと知ってるんだよ、他に誰かいなかったのかよ、と喉まで出かかった言葉をもういちどぐっと飲み込んで、朽原は自分に突き立った白羽の矢にうなだれるのであった。

「…まあ、いいけど」
「話が早いな」
「そういうことに、二人じゃアレでしょ、別に空いてる人、もう少し誘った方がいいんじゃないの。手塚とか、大石とか」
「手塚は今週通院の予定があると認識している。大石も空いていないらしい」
「なるほどね…それこそアレは?不二とか、菊丸は?乾くん、同じクラスなんじゃないの。あの二人なら、佐波さんとも仲いいし…」

と、言いかけたところで、乾の表情が若干硬くなったのが見えた。「あの二人に、囃されるのも、からかわれるのも、嫌ってか」

「それだけじゃない。あの二人だと、結局あの二人の好みに傾倒したプレゼントになってしまう可能性がある」
「なるほどね」

つまり乾が言いたいことは、「佐波さんへのプレゼントは自分で選びたい」、だから「客観的な判断が欲しい」というわけだ。なるほど自分に白羽の矢が突き立つのも納得がいく。むしろほかにいないだろう。別のクラスで、佐波と親交があり、佐波と同性で、かつ乾貞治という人間を知っていて、何より土日を持て余すような輩は。

「そういうことなら、手を貸してあげないこともないわ」
「助かるよ」
「で?プレゼントを選びたいって言うからには、候補はいくつかあるんでしょうね?」
「ああ、もちろんだ」

 そして自信満々に差し出された候補のリストを目にした朽原によって、彼のプレゼント候補リストに全却下の判定が下されたのは、言うまでもない。

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