英語の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
そろそろ昼でも食べに行こうかと大きく伸びをひとつ。ごきりと物騒な音を立てながら首を回す朽原をすっぽりと覆うように、一筋の影が差しこんだ。

「朽原、今、いいか」

なんだなんだと見上げてみれば、目の前に立ちはだかる高い壁。蛍光灯の光を受けてきらりと反射する眼鏡は、少なからず威圧感を感じさせる。いつもより数割増し気難しそうな顔をした乾貞治にそう言われて、たじろがない者はいったいどれほどいるのだろう。この青学にそんな豪胆がいたとして、きっとそれは手塚国光ぐらいじゃないだろうか。この威圧感は不二の笑顔・手塚の一瞥に次ぐ破壊力を持つ。単に朽原が乾貞治を得意としていないからかもしれなかったが。
朽原の口からは「はあ、」と気の抜けたような返事が零れ落ち、立ち上がろうとすればガタンと椅子が音を起て、机の上からは英和辞書が転がり落ちる。動揺が目に見えるかのようだった。

「今って、昼食べにいくってこと?」
「ちょうど昼だからな、それもいいだろう」

とてつもなく言わなくていいことを言った気がする。朽原は頭を抱えたくなった。何が楽しくて乾貞治と昼食を食べに行かねばならないのだ。話題がない。話題がない昼食ほどつらいものはない。テニスか?テニスの話をすればいいのか?朽原は一緒に食事をするどころか、乾貞治と会話を交わしたことが、三年も同じ学校にいるというのに、指折り数えるほどしかなかった。

「そうだ、昼なら他にも人を誘うのはどう?て、手塚とか…」
「すまないが、来週の基礎連メニューを大石と組み立てる先約がある」
「このひとでなし!仏頂面!薄情者!」と喉まで出かかった言葉を飲み込んで、奥歯をぐっとかみしめる。

 そんな朽原をよそに、乾は気まずさなど微塵も何も感じていないのか、すたすたと教室を出て行ってしまった。ガッデムなんだってんだど畜生。桃城武よ今すぐ私を助けてほしい。


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