氷帝に転校して半年経った。
 もう言葉では語りつくせないくらいいろいろあった。いや別に事件とかはなく平和な日々だったのだが、この学校は行事が盛りだくさんで既に思い出いっぱい状態なのだった。

 7月にはオペラ鑑賞会で「セビリアの理髪師」を観に行った。ミュージカルみたいなものかと気楽に構えていたら劇部分は日本語でも歌は当然イタリア語だったため、歌は予習の必要があった。
 というわけで軽い気持ちで榊先生に教えを乞うたところ、熱心な生徒で嬉しいらしかった先生によるマジの講習を受けるハメになったり(無論忍足くんも巻き込んだ)。
 オペラはすごく良かった。美しい歌声に感動してちょっと泣いてしまった。

 8月にはドイツに旅行。
 大学時代に外国に行ったことはあったがドイツは初めてだったので大はしゃぎだ。忍足くんはドイツ美女に胸打たれてた。私は気が狂うほど黒ビールが飲みたかったが、さすがに中学生の体では許してもらえなさそうだったので断念した。
 ……中学校に馴染んできたと思ったのにたまに大人の欲望が出てくると年齢を感じるな。やめろやめろ。ドイツには氷帝に姉妹校があるらしく、来る頻度はわりと高いらしい。ブルジョワ!

 あとは体育大会とか。
 もうちょっと混沌が過ぎたので本項では深く触れませんが、ええ!?忍足くんそんなことまで!?跡部様いけませんそんなっ!スゴすぎますッ!ノワール組のライフはもうゼロよ!次回、桐子死す!デュエルスタンバイ!って感じだった。
 わからない?だよね。私もだよ。


 そんなこんなで。
 私は相変わらず忍足くんと仲良しだ。定期的に「あの二人付き合ってるんじゃ?」旋風に煽られるときもあるが、二人して特に面白いリアクションもせずのらりくらりとかわし続けている。
 安心して氷帝の忍足ガールズ、私ショタコンの気はないから。

「じゃあきりちゃんの好みってどんなの?」
「好きな顔のタイプは阿部寛と北村一輝、TOKIOなら長瀬!よろしく!」
「うわ〜〜濃いな〜〜」
「確かに忍足くんではないね」

 クラスの女友達たちが神妙に頷く。
 手元では黒い布をチクチクと縫い合わせたり、大きな紙に線を引いたり、電卓でレシートの計算なんかをしている。11月の文化祭の準備は着々と進行中だ。
 そして久々に恋バナの流れになっている。中学生女子はこの話題のハイエナのように飛び付いてくる習性があるので、不用意な発言とリアクションは避けるべきなのだが。

「でも忍足くんきりちゃんのこと好きっぽい」
「ね〜〜いつもクールなのにね」
「そんなバカなガハハ」
「山賊笑いやめて女の子でしょ」
「ウフフ そんなおバカさん」

 この議題は掘り下げると「男女間に友情は成立するか?」という深淵なる問いに辿り着いてしまう。いつの時代も取り沙汰されてきたが、人生二週目でもとんと分からない。
 前世(死んだ記憶もないのでそう呼ぶべきか迷うが)から意識はずいぶん薄れ、いまは本当に中学生として生活ができている。人間不思議なもので、子供として扱われると身も心も子供に戻るものなのだ。決して私の精神年齢がもともとそんなに、という話ではない。ないったらない。

 ちなみにうちのクラスの出し物は「プラネタリウム迷路」で、まったりと迷路を楽しみつつ景色も綺麗という代物だ。暗いとちょっとドキドキするし良いチョイスだと思う。さすが私立、やはり予算が違う。
 ここは高校・大学と看板を任され続けた伝説の看板係・伊丹桐子の美的センスをいかんなく発揮してやろうじゃないか。

「ふう、下書きはこんなもんかな」
「きりちゃんこれ私たちも描くんだよ」
「ミュシャのスラヴ叙事詩みたいになってる……」
「教養〜〜」

 さすが氷帝のお嬢様方、芸術の造詣も一味違う。ちょっと気合の入れすぎた下書きから、とりあえず無駄な装飾を省くところからはじめよう。








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