隣の席の転校生は、いつのまにかクラスで一番仲がいい友達になっていた。
 彼女いわく「ベスフレ」。
 伊丹ちゃんは面白い。話してるとぽんぽん言葉が飛び出てきて、ときどき「何でそんなことまで?」ってことまで知っている。そのわりに本は読まないらしいが、大切なことはすべて漫画から教わったらしい。

 で、よくしゃべる。
 喋ってないと死ぬのかというくらい喋る。クラスの誰とでも喋る。一人でいる子がいたらふらふらと寄っていって、軽く喋って去って行く。特にどこかの仲良しグループにいるという感じでもない。先生ともよく喋ってるし、あまり隔てがないというか、言葉が通じる相手なら誰でもいい可能性はある。

(けっこう大人っぽいしなあ)

 いろいろと、臆さないところが特に。
 それから関西出身。大阪じゃなくて兵庫。裏門から帰ってるから家はあっち方面だと思う。テニスコートで帰りの挨拶を何回かした。たまに真剣に落書きしてるけど絵がかなり上手いとか。好物は焼肉とローストビーフ。名言は「肉の脂身を肉の赤身で相殺する」「肉は生であればあるほどいい」「肉を食うと風邪が治る」。
 あとは……。
 そこではたと止まる。

(あれ、俺ってもしかして伊丹ちゃんのことそんなに知らん?)

 シャッと線がノートに走る。
 失敗した。
 くだらないことは山ほど思いだすのに、口に出せる情報になるとあまりない。朝からこんな調子だ。岳人に言われた言葉がずっと気がかりで、考えても考えても「特別な女友達」と「好きな人」の違いがいまだに分からないでいた。
 授業が終わって先生が教室から出ていく。失敗したノートは消さずに閉じた。隣では彼女が書き終わった紙面を見て満足そうに息をついていた。窓から差す白い夏日に透かした髪は、紅茶かメープルシロップのような柔らかい色をしている。

「伊丹ちゃん」
「はいよ!」
「きりちゃんて呼んでいい?」
「えっいいよ! なんなん、急にわたしのベスフレの自覚が湧いてきたん?」

 仲のいい子はだいたい彼女をそう呼ぶ。
 きりちゃんは笑って手の甲を軽く掻いた。嬉しそうに照れて笑っている顔を、なんとなく我慢しているように見える。ぜんぜん隠せていないが。
 いつもバカ話ばかりしているせいでお互いのことを知らない。それも別に友達に今更ということはないはずだ。私はあなたのことをぜんぜん知りません。もっと仲良くなりたいです、と示すだけ。

「えーっ、じゃあわたしはなんて呼ぼかな?ゆうちゃんとか?!」
「ゆうちゃんて誰も呼んでへんやん!」
「いや違うねんわたし兄貴おんねんけどさあ、名前優大でゆうちゃんて呼んでるからそれで侑士やったらゆうちゃんかなって!」
「ゆうちゃんでええで」
「や、やさし〜〜」

 追加情報。ユウダイって兄貴がいる。照れると喋りまくる。照れすぎると顔を隠す、と。
 なんや、わかりやすいやん。







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