ここ1ヶ月くらい。
いや面白いか面白くないかでいえば面白い。クラスであった面白い話をいろいろ教えてきて、まあ話すのが上手いやつなので俺も笑ってしまうが、だいたい話に登場する「伊丹」というやつがちょっと気にくわなかった。
(いや別に伊丹はいーんだけどよ)
入学当時のあの跡部入部事件から仲いい俺を差し置いて、ずーっとそっちの話をするのが気にくわないだけだ!
なので我ながらちょっと子供っぽいとは自覚しながら、強い陽射しと暑さのイライラも相まって、楽しそうに話す侑士にぶーたれた顔で文句を言ってしまう。
「伊丹って女子だろ?話合うのかよ」
「伊丹ちゃんオモロいからなあ」
「まあ面白いっつーのはわかるけど」
そりゃもう十二分に。
氷帝は幼稚舎からずっと同じ学校にいる生徒が多いが、それでも中等部ともなればなんとなく男女でグループが分かれるものだ。彼女は外から来たのだから尚更のことそうなりそうなものだが。
転校したてで友達がいないからかと思っていたが、たまに見る様子からして別にそんなこともないらしい。むしろ誰とでもよく喋るやつという印象だった。
ただの友達の多いのか?特別侑士と波長が合うのか?それはわからない。
「んなこと言って、伊丹のこと好きなんじゃねーの?」
だからこれはほんの冗談だった。男友達が女の子と仲が良かったら一度くらい聞きたくなる台詞というだけ。
俺が意地悪な顔で笑ってそう聞くと、侑士はすぐに「ええ?」と笑ったあと、ちょっと考えるように目を左上に向けて黙り込んだ。おいなんだその反応はよ、からかいづれえ!
「どうやろなあ」
「何だよその言い方はー!」
もしかして、からかわれたのはこっちのほうか。女子が毎日話してるような恋愛の話とかはやっぱ俺たちにはちょっと早かったかもしれない。
まあ隣の席のやつと気が合えば話も盛り上がるんだろう。それにこのボールをコート上で打ち合う爽快感はクラスのやつとは味わえない。その点では俺のほうが有利だ。そんなことは侑士にはわざわざ言わないけれど。
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次の日の朝礼前。
そんな話をしたからか、朝登校してきた伊丹になんとなく目がいった。相変わらず俺よりチビで、髪がけっこう短くて、なんか朝から楽しそうだ。
「よお、おはよ」
「おはよー。前のめちゃイケみた?!」
「観てねえ!」
「ウッソやん、じゃあ聞いて!」
特に自己紹介もなく。
伊丹は朝イチで会った相手にどうしてもこれを言いたかったのだ、とばかりの勢いで番組を再現する。ジュワジュワと朝から元気に蝉が鳴くなか、負けない跳ねるような黄色い声で。だいたい内容は想像がついたが、マネが妙に上手くて、途中から大声で笑ってしまった。
なんだよその回、俺も見たかった!
「んじゃ!」
ひととおり演じきった伊丹は満足げに笑って去っていった。さらっとしたやつである。なんとなく忍足が仲良くなるのもわかるかもしれない。
俺は笑ったせいでまだ顔がむずむずしていて、あいつほど上手くやる自信はなかったが、とりあえずもう一回同じ話を誰かとしたかった。伊丹に感じた小さな嫉妬とかはどうでもよくなっていた。
「なあめちゃイケ観たか?」
「あー!面白かったよな!」
「俺観てねえんだけどさ、さっき……」
でもあの時みた侑士の顔は、なんとなく忘れられないでいる。