一週間経った。
 引っ越ししたてで家のパソコンがインターネットに繋がっておらず母親に懇願したくらいで、あとは特に問題なく過ごしている。
 必死に訴えすぎたせいで、パソコン初心者なのにhtmlとcssが少しいじれるスーパー中学生ぶりを露見させるところだったが、ミーハーを前面に押し出してなんとか誤魔化し開通した。

 で、テニプリで検索したけどなにもヒットしない。途端に「ああ、これはやっぱり現実なのだな」と腑に落ちた。

 ともかくSNSがない。
 携帯もない。
 こんなに毎日色んな意味で楽しいのに、報告する相手がいない。手持ち無沙汰でアンニュイに夏の青い空と入道雲でも眺めながら「空きれい……」とか乙女チックかつフォトジェニックにつぶやいても投稿する先もないのだ。
 友達は学校に普通に居るが、恋バナのテンションには体がついていかないので、そういうのが苦手なキャラだと思われつつある。

「きりちゃんて照れ屋さんだよねー」
「そーでもないけどさあ」
「忍足くんと仲いいのに」
「忍足くんはベスフレやから!」
「ベス……フレ……?」
「そんな子犬みたいな目で見んといて……ベストフレンドね、ベストフレンド」

 そう、私がクラスで一番仲がいいのは忍足くんだ。
 やっぱり隣の席で同郷というところが大きい。なんせ東京組ときたら、私がなにか謎の知識を披露したときそれを指摘されたとき「ハワイで親父に教わったのさ」と言ってもいろいろ一から説明する羽目になるのである。誤解しないで、あの漫画はこの世界にもあるんだよ。

 それが忍足くんの場合はこう。

「ハワイで親父に習ってな」
「出たで伊丹ちゃんの親ハワ」
「あとクルーザー編と銃編もあるから」
「いつ使うねん!」

 こういうことを毎回やっては二人でゲラゲラ笑って授業中まで引きずり、突然笑いだしては先生に注意されることもしばしば。
 忍足くんは見た目のクールさに反してメチャメチャ笑いのツボが浅いので、ついつい笑わせたくなってしまうのだ。
 そして私も浅いので殺し合いになる。
 というわけで私と忍足くんはクラスでなにかとセットで数えられがちになったが、それについて別に嫌だとはちっとも思わなかった。

 いやあ、よく原作キャラと仲良くなったらバッシングを受けるみたいな展開を見るが、さすがにまだ中学1年生ということもあってみんなポワポワしているのでそんな兆しもない。
 そもそも氷帝の子は育ちがいい子が多いからか、ご両親の愛情をたっぷり受けて気持ちの余裕があるというか、単純にものすごくいい子が多い。たまに自分の汚れた大人の部分が悲鳴をあげるレベルだった。

「忍足くん今日の榊先生の服見た?シャツ若草色」
「それ本人の前で言うてみて」
「言えるわけないやん!」
「『先生、今日のシャツ若草色ですね』って」
「ほぼ自殺やでそれは」
「ふふっ」

 忍足くんのツボに入った。今日のキーワードは『若草色』です。先生が教室に入ってきてさっと二人で席に真っ直ぐ座るが、頬が笑っている。忘れたころにこっそり囁いてあげよう。
 そしてたぶん今日も怒られるのだ。







×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -