忍足くんが、おかしい。
 他の人にそれとなく聞いてみても「そう?」としか返ってこないため確信があるわけではないが、たまにぼーっと上の空でいたりするし、話しかけたときに変な間があったりするし。
 考えれば考えるほど絶対になにかあった、とは思う。けど理由は分からない。話さないってことは言いたくないってことかもしれない。
 でも気になるもんは気になるし。

「ってなわけやねん、朋ちゃん」
「それって……恋じゃない!?」
「やっぱり!?うわーーん!嫌やーーー!!超つらいせめて応援させて〜〜〜!!」

 朝っぱらからゴミ捨て場にゴミを置いたあと、近所の小学生に相談する女。私です。小坂田さんちの朋ちゃんはちょっと元気でおませな女の子で、弟くん(しかも双子)の面倒をよくみるとっても偉い子なのだ。
 ちなみになぜ知り合いになったかというと、引っ越してきてすぐにゴミ出しの方法を教えてもらってから。この地区ではダンボールはビニール紐で縛って出すのがルールである。

「あー、忍足くんに彼女できたら今までみたいに仲良くしてくれへんかなーー」
「男のコってそういうトコ子供よね!あ、でも忍足くんは聞いてる感じ、そうでもないかも?」
「そうかな?くっそ〜、相談もしてくれへんし!なんやねん!」

 なんかムカついてきた。
 完全に一人で怒っているだけなのだが、若いだけあってエネルギーを持て余してしまっている。行き場のない感情をゴミ袋をさらに固結びにすることで解消しようとしている私の背中を、朋ちゃんがポンと叩いた。

「きりちゃん、そんなときは野球よ!」
「なるほど、バッティングセンター式のイライラ解消?!」
「うちの弟もやりたいって言ってるし」
「なんておあつらえむきな!」

 冷静に考えたら野球のメンバーにうまく組み込まれた形になったが、そんなことはどうでもいい。一刻も早く球を天高くカッ飛ばしたい。よーし、土曜は朋ちゃんと双子くんたち、その友達のチビっ子たちに混じって草野球だ!


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 野球というのは1チームにつき9人は必要な大人数スポーツであるが、全員合わせても1チーム分にすら届かないのでゲーム運びは適当である。なんとなく負けた勝ったといいながら試合をしていたが、さすがにチビっ子たちのなかだと私も少し活躍できた。
 双子ちゃんの友達が投げたボールをバットのど真ん中に当て、雄たけびをあげる。

「忍足のー!薄情モンー!!」
「うわー飛んだー」

 カキーンとはいかないがよく飛んだ。スカッとする。しかし川沿いの空き地を越えて道まで行ってしまったので、バッターの私が自分で探すはめになった。ローカルルール野球においては飛ばした奴が取りに行くのが鉄則だ。
 ボールを追いかけて走っていくと、土手を上がったところで背の高い誰かが拾ってくれた。見覚えのある制服の男の子達。というか、氷帝男テニだった。午前練習が終わって帰宅中らしい彼らに、ちょっとためらったあととりあえず声をかける。

「おーい!おつかれー!」
「あ!?伊丹!?」
「ボールちょーだい!」
「あ、はい、どうぞ伊丹先輩」
「サンキュー!」
「で、きりちゃん何してんの?」
「近所の子らと野球。全然メンバー足りてへんねんけどさー。みんなやらへん?」

 忍足くんがいたのでダメ元で誘ってみた。野球は人数が多いほうが楽しい。今ほぼ野球できてないし。こんなスポーツ万能軍団が助っ人に入ってくれたら小坂田シスター&ブラザーズも大喜び間違いなしだ。

「いいぜ、やってやろうじゃねーの。なあ樺地?」
「ウス」

 そしてなぜかノリノリの跡部くん。頷く樺地くん。キングが乗り気なので自動的に他メンツも参加が決まり、忍足くん、跡部くん、向日くん、鳳くん、樺地くんが加わった。やったぜ。テニス部レギュラーをひっ捕まえて野球をやらせるとはなんて贅沢な話なの。ちなみに宍戸くんとかは家が別方向らしい。

「トモちゃんブラザーズ!野球やってくれるお兄ちゃんたち連れてきたぞー!」
「やったー!」
「右から跡部くん、向日くん、樺地くん、鳳くん、忍足くんね。仲良くしてあげて」
「おしたりくん!」
「おしたりくんだー」
「ん?」
「ピー!!!集合!!!!」

 いかんしまった。どうせ分からないと思って叫び声に名前を混ぜていたことがアダになった。首を傾げている氷帝男テニ部以外のチビっ子たちと朋ちゃんを集合させ、肩を組んで声をひそめる。

「いいですか〜。今度アイス買ったげるから私が忍足くんについて喋ったことはぜんぶナイショにしてお願い死んでしまいます」
「ええー」
「カップのやつ買ってくれる?」
「こらっ!恥ずかしいことしないの!パピコとかでいいでしょ!」
「なんでも買ってあげるから!」

 さすが朋ちゃんの弟、しっかりちゃっかりしている。朋ちゃんも弟を叱りつつもアイスの種類まで要求してきた。今月のお小遣いの残りを計算しながら臨時集会は解散し、私はくるっと振り向いて拳を握る。

「よーし!私込みで中学生組は3-3に分かれて勝負や!負けたほうがアイスおごるってことで!」
「んだそれ!くそくそ、負けられねえ!」
「なあなんで俺名前知れてんの?」
「位置につけーー!!」
「ごまかした」
「ごまかしたな」

 ええいやかましい、説明できるか。
 男子たちの声を聞き流しながらまたバッター席に立つ。グローブなんて数が足りていないにも程があるが、ゴム製のプヨプヨボールなのでまあ大丈夫だろう。プラスチックのバットで叩くとよく飛ぶんだ、これが。







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