夏真っ盛り。
 梅雨が明けて日射しが冗談じゃなくなってきた。濃い青色の空と入道雲。ペンキをぶちまけたようなコントラストが目を刺してまぶしい。
 前回、おっとメタい。6月はじめごろに申し上げたとおり、私は忍足くんが好きになった。といってもまだそれが恋と呼ぶべきなのかどうか自分でもよくわからないので、結論は「何もしない」に落ち着いたわけだけど。

(これって片思いか〜〜)

 友達に片思いってまた、切ない話だ。
 だいたいどうなるというのだ、進展を望んで。私が告白なんてしようもんなら「ごめん、そういうんじゃないねん」と優しい忍足くんに気を使わせてしまうことうけあいだし、テニスにももう呼んでもらえないだろう(こういうことが気を持たせてしまったんやな……とかいう感じで)。
 考えれば考えるほど何もしないほうがいい。あまつさえ誰かに知られたりしたら気まずくてクラスでも普通に喋れなくなるんじゃ……えっツラい……。

「つら!ムリ!!」
「うわっビックリした!」
「急になに?!」
「妄想でツラくなってた。生きるって……ツラいね……」
「青春なの?」
「そう、思春期、成長痛」
「1年から1cmも伸びてないくせに」
「やめて!」

 ぱた、と机に頬を当てて伏せたら前の席に座ったみっちゃんがペンペンと私の頭を叩いた。マコちゃんはクールに漫画を回し読みしてる。転校当初に感じていたポリゴン感とか非現実感はとうに失われ、私にとってすっかりここが大事な「日常」になっていた。もう1年経っただなんて考えられないくらいに。
 忍足くんは宍戸くんと喋ってる。
 ……そーなんだよ。女の子と喋ってるの見ても「ふーん」て感じなんだけど、忍足くんあんまり仲良い女の子居ないんだよね。まあ中学生ってそんなものか。私も一回目のときは思春期特有の照れがあったし。

(でも男友達と喋ってるとなあ)

 なんかこう、モヤモヤっとしたものがよぎるってのはなぜなのか。やっぱり私って忍足くんのベストフレンドになりたいのか。男女の垣根を超えた熱い友愛ってやつを求めてるのかも。
 唇を突き出して不満顔のままいると、クラスの入り口で話していた忍足くんがこっちを振り向き、手で示した私のほうに宍戸くんが向かってくる。えっ?なんで?

「伊丹」
「えあ?はい?私?」
「急に悪い。あのよ、交流委員会のやつからの頼みで……去年文化祭でD組の看板描いたのって伊丹だよな?」
「そうそうー」
「うち、幼・中・高と大学も合わせて交流会やるんだよ。そのポスター作ってくれねえかって、指名で」
「うっそォ」

 めんどくせえ!
 という声が出かかって止まったのは、忍足くんの友達にいい顔したい心のあらわれだったり。いや、ほら、お前の友達感じ悪ぃなとか言われて欲しくないじゃん。それと同じよ。
 宍戸くんもほとんど初対面の女子に対して突然すぎるとは思っているんだろう。クラスの面々に物珍しそうに見られていて居心地悪そうだ。こういうときはイエスともノーとも言わず誰に任せるべきなのかをはっきりさせるのが吉だ。

「それ担当の子って誰になる?」
「頼まれたのは鳳ってやつだ」
「じゃあその子に直接いろいろ聞いてくるわ。わざわざありがと!」
「おう。宍戸からっつったら言ったら分かるからよ」
「宍戸くんね。オッケー」

 知ってますとも。ついでにまだ長い茶髪をポニーテールにした彼が、いつか色々あって髪を短くすることも知っているが、その色々が何なのかは正直覚えてない。こういう記憶も曖昧になりつつある。
 営業スマイルっぽいがにっこりして返すと、宍戸くんはだいぶ肩の力が抜けたように少し笑ってくれた。よしよし、心証は悪くなかろう。こっちを後ろから窺っていた忍足くんに親指を立てると、いいサムズアップが返ってきた。見たか、大人の社交術を!
 そしてまた私は伝説の看板係・伊丹桐子になってしまうわけか。人が良すぎるってのも困りものだな。暇してるともいうけど。











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