文化祭当日です。
 プラネタリウム迷路はけっこう盛況。まったりできるので親御さんとかの休憩所にもなってるらしく、乱暴にものが扱われて壊れるハプニングもなく。さすが氷帝、客層も上品。
 昼ごろは体育館で2年の劇や有志の舞台があるので、だいたいそっちに人が流れているのだろう。この時間帯は希望が少なかったので適当に当番表に名前を入れたら普通に一人になってしまった。
 というわけで、お留守番中だ。

(手持無沙汰だなー)

 現代ならスマホでSNSでもチェックして時間を潰すところだが、あいにく携帯は持たされていない。落書きする紙もない。お客さんもいないし暇だ。
 となると考え事をしてしまう。
 いやね、私も忍足くんのことは大好きよ。お顔のクオリティもすごいと思う。遠目で見ても派手な美形の跡部くんとかとは種類が違うけど綺麗な顔だし。話も面白いし。ツッコミにキレがある。モテるよね。いやでも、待て、誰に言い訳してるんだろうわたしは。

(暇だなーースマホいじりたいなー。テストの成績良かったら携帯買ってって交渉しようかなー)

「きりちゃん」
「ほああ!!オシタリユウシ!!」
「なんでカタコトやねん」

 噂をすればなんとやら。
 教室の入り口から歩いてくるのはウワサの忍足くんである。ていうか忍足くんこの時点で既に私より身長高いんだな。あれ、初めて会ったときわりと同じくらいだった気がしてたんだけど。男の子って成長が早い。私はだいたい今くらいで身長が打ち止めだったので、あとは差が開く一方だろう。

「こんな時間の当番をしてるきりちゃんに、忍足くんがご褒美もってきたで」
「たこ焼き!」
「あと揚げパン」
「クレープ!これは学食のバイキングとみた」
「当たり。食べる?」
「ありがと〜〜食べる〜〜」

 机の置かれた魅惑的な食べ物たちにお腹が鳴る。買い食いするからと思ってそういえばお昼を食べに行かなかったんだった。
 たこ焼きを口に放り込んだ私を見て、忍足くんはちょっと唇を緩めて横に座る。いくら?と言っても差し入れだからと教えてくれない。そうなんだよ。優しいし、いい子なんですよ彼は。

「忍足くんてさあ……」
「うん」
「めっちゃ優しいよね、いい奴やし」
「ええ?現金やな」
「いや別に食べ物貰ったからじゃなくてよ?真面目な話」

 忍足くんは驚いたような、ポカンとしたような顔でこっちを見ている。眼鏡でも隠せないシャープな目が、油断すると丸くなってあどけない顔になるのがちょっと可愛いと思う。

「そんなんいうたら」
「うんうん」
「みんな嫌がってるとこに、当番希望出すほうが優しいと思うけど」
「あーいや私はさあ、違うねん、ああいう微妙な雰囲気で長引くのがイヤなだけ」
「きりちゃんも……いい子やと思うで」

 真っ直ぐ視線が合う。
 ごくん、と口のなかのたこ焼きを思わず飲み込む。どういう雰囲気だこれは。すごい流れになってしまった。こんなに涼しい顔の忍足くんとは裏腹に、隠しようもなく顔が赤くなっているのを感じる。

「…………ど、どうも」
「こちらこそ」
「なんか恥ずかしい」
「俺も」

 たこ焼きを完食した。
 普段バカ話ばかりしてるせいで余計に恥ずかしいが、静かな午後の空気がそれをさらに強調する。外では賑やかな声がはじけているのに。忍足くんのほうが絶対良い子だよとか。私のはただの妥協だとか。返す言葉はあったけど。
 でもべつに、いいよね、友達だし。
 しかし照れが許容量を超えて本能が食欲に逃げた。ビニールに包まれた揚げパンをかじるとまだ暖かくて、じゅわっときな粉の香りがする。美味しい。

「あっクレープ先に食べればよかった」
「揚げパンのほうが日持ちするしな。ていうか、きりちゃん俺のこと『ゆうちゃん』て呼ばへんの?」
「いやだって照れるねんもん。徐々に慣らしていくから、へへ」
「この分やと来年やな〜」
「気長に待ってちょーだい」

 来年も仲良くしてくれるの、とは。
 さすがに恥ずかしくて言えなかった。







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