夜な夜な寝返りを打つ。
 立派な羽毛布団を大福のようにこんもり丸く被っているので寒くはない。このやたらめったら部屋ばかりが広い屋敷の隙間風はいつものことだし、暖房が満足にない生活にも慣れてきた。そんなに深刻な話ではない(といち野は思っている)ので誰かを呼び付けるのも気が引けるが、忍び寄ってくる気配のない睡魔にはため息をつくしかなかった。
 こういう夜がたまに訪れる。身の置き場が分からなくなって、居心地の悪さを感じて胸騒ぎがじりじりといち野を追い立てるのだ。明日も早起きしないと、早く寝ないとと一瞬でもよぎったらもうおしまいで、また寝付けない苦痛の時間が訪れる。

(あーあー、時計見ちゃだめ……)

 目に入った時計の針が、布団を針のむしろに変えてしまう。静かな部屋でチッチッチッ……と秒針の音が耳を刺して、いち野はついに我慢できずに布団から体を起こした。じっとしていても時間がただ過ぎるばかりで腹立たしい。
 大体この部屋が広すぎるのが悪い!
 憤然とかけ布団を蹴り上げて、いち野は羽織を手に障子を音を立てないように静かに開けて、そっと部屋を出て行った。

 さて、どこに行こうか。


本を取ってくる。
台所に水を飲みに行く。
とにかく歩いてみる。




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