流星街のアジトで女を拾った。
 歳は若いが子供ではない。街の空気で衰弱している。おそらくここで暮らしている者ではない。捨てられたのだろう。倒れる寸前に助けを求めた。助けてほしいのならそうしよう。ベッドに放り込むとうめき声がする。悪夢でも見ているのだろうか。



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 女はアンリと名乗った。名前はあるらしい。水と食料を必要とするらしいので、見た目通り普通の人間のようだ。流星街のことも自分のこともよくわかっていないらしく、最寄り駅はどこかと尋ねられる。答えない。
 見たところ出身がよくわからない。どの地域の者とも特徴が当てはまらない。不自然なほど警戒心がないか、抱きなれていない。
 アンリはこちらを疑って怯えているが、その自覚がない。俺を親切な人間だと信じ込むことにしたようだ。逃避によって自分を守るのに長けているらしい。

 ウヴォーギンとノブナガが近くにいるらしい。連絡して車と着替えを持ってこさせることにする。



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 アンリは眠っている。
 少しうなされているが、おとなしい。



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 ウヴォーギンとノブナガにアンリを見せると、「また変なもん拾ったな」と言われた。二人には興味がわかない代物だったらしい。
 アンリが悲鳴をあげて起きた。人並みの危機感はあるらしい。はじめに助けたからか、俺に刷り込みのように信頼を置いている。少なくとも彼女はそう思っているらしいが、あちらから触れようとはしない。

 妙にオーラが落ち着いているので、指先に数字を作ってみたが反応しない。念は使えないらしい。指示すると素直に従う。何か聞きたそうにするが、無視するとあきらめる。ずいぶん扱いやすい。


 その日のうちにアジトを後にした。しばらくは×××国の郊外のアジトに住むことにする。



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 アンリはおとなしい。
 少し不気味なくらい従順だ。
 何度かものを与えてみたが、反応はだいたい同じ。文字は読めないらしい。公用語を話すのに読み書きができないとはどういうことだろうか。
 彼女はごく一般的で平和な国で育ったと思われる。ある程度の教育機関で学んだ人間の思考回路を持っている。そのわりにものを知らなさすぎる。
 この矛盾はなんだ?



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 アンリが団員の何人かに、俺たちが蜘蛛であることを教えられたらしい。
 「本当ですか」と聞かれたので「本当だ」と答えた。
 アンリは微妙な顔をしている。押し殺した怯えや疑問が見えるが、何も聞かないで「そうですか」とだけ言った。
 彼女は盗賊を知らないのかもしれない。



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 数日経つが、大きな変化はない。
 彼女はこちらがアクションを起こさない限り動かない。
 そろそろやることもなくなってきた。




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 アンリが「出ていく」と言い出した。
 ここ最近では一番大きな変化だ。
 なるほど、彼女は本当に自分がどういう状況にあるか、本当はすべてわかっていたらしい。それにしても、タイミングがいい。鋭いのか鈍いのかわからない。

 彼女は俺への認識を改めたようだ。
 それでいて、まったくの正解を叩き出した。
 おかげで俺は彼女を殺すことをやめて、もうしばらくの間はここに置いておくことにした。アンリはずっと自分の立場をわきまえていたが、これからもそのようにするだろう。

 ともかく、勝手に逃げ出さないで良かった。
 手放すのは少し先にする。



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 アンリは眠っている。
 彼女はもうどこにも行けない。



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