「やぁ、俺のスイート」
「sweet?」

もうすっかり見慣れた黄金の巻き毛が楽しげに揺れる。ジョッキーは小柄じゃないと勤まらないって従兄弟のジョーキッドが言っていたけど、それでも彼は私より大きい。私が小さいというのもあるけど。

ディエゴが口にした言葉の意味ならよォく分かっているけど、自慢のストロベリーブロンドをくるくる弄りながら見当違いな答えを返した。


「スイートコーン?スイートポテト?チキンの付け合わせに良いね、アタシはベイクドポテトの方が好き」
「野菜も食ったほうが良い、俺もそう好きじゃないが」
「ん〜……ミックスベジタブルも付けるよ」
「じゃ、行くかい?」
「残念、今日はすっからかん!」


無い袖は振れない、なんて袖もない腕を振ってみせたら、手首にいくつもつけたカラフルなブレスレットがジャラジャラ鳴って耳に心地いい。中でも特に軽薄なイエローのスマイルは私のラッキーアイテムだ。

雄々しい眉の下でひんやりと冷たそうなブルーの瞳は相変わらず柔らかな光をはらんでいてくすぐったい。
仕方ない、とばかりにため息を吐いたあとは、私のラッキースマイルが輝くばかり。


「いいぞ、奢ってやる。いずれはマンハッタン島だって手に入れるこのDioが!」
「さっすが大統領」
「じゃあ早く行こう、あそこは昼ごろ混み出すんだ」


自然に手をとられて、女の子の間では「恋人つなぎ」って呼ばれてるのを知ってか知らずか、いつの間にか指がしっかりと絡んでいた。あまり慣れない繋ぎ方にそわそわと親指を硬い手のひらに滑らせたら、ぎゅっと強く手を握られる。

ちょっと不器用さが伺える痛いくらいの力強さに、正直かなりグッと来た。ディエゴが嬉しそうに口の端を上げる。


「なんだ?」
「……なんでもないよ、お腹減ったなァって」
「心配しなくても君の大好きなチキンは逃げやしないさ、もう飛べないんだからな」
「うわ、ブラックジョーク」


でもね。
ディエゴのファーストレディになる気はまだ無いの。だって18年の付き合いになる自由奔放な毎日をまだ愛しているし、貴公子と呼ばれるディエゴならもっと利用しがいのあって可愛い子がもっとたくさんいるはずじゃない?
試すような真似は最低だっていうけど、騙されて傷つくなんて最悪な展開よりずいぶんカワイイと思う。


特別な恋人はいらないの。欲しいのは誰かの特別なんだから。


お手をどうぞスイートハート
(小指の糸が続く先はまだ見えないの、愛してるならもうちょっと待ってて!)




スイートハート【sweetheart】は(男性から見て)恋人、愛する人、意中の人。




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