白状すると、だ。

ジョニィ・ジョースターの従兄弟に18歳の少女が居ると聞いた時は、真っ先に「使える」と思った。あそこの家系は例外なく裕福だし小娘1人虜にするなど容易いことだ。気分はまるで最高級の魚が足元に泳いでいるのを見つけたようだった。

どうやらその少女はケンタッキー州では“いい意味でも悪い意味でも”有名な人物らしい。ひとところに留まらない放浪癖のある彼女に会ったのは、接触を図ってからずいぶん経ったあと。
今考えたら、この時まともな俺とは最後の別れだったというわけだ。


その姿を一目見ただけで心臓が止まってしまいそうだった。

好みドンピシャだったとか、防衛遺伝子の型が全く違うほどなりやすいだとか、一目惚れには諸説ある。だが自分で体験してしまえば何も難しいことはない。本能が求める相手というのが存在するんだろう、少なくとも俺はそう受け取った。


ガタン、と軋む長椅子。新聞を読んでいた彼女が顔を上げる。
偶然を装って出会うつもりだったのになんて体たらくだ。
揺れたストロベリーブロンドとふわふわと可愛らしい睫毛は飴細工のように繊細で、口にしたら甘いだろうかと思わせる。

きょろりと辺りを見回したオリーブ色の瞳と視線がかち合った。息が詰まりそうだ。


「ディエゴ・ブランドーッ」
「!?」
「そうでしょ、ほらこの“貴公子”っていうの」


今日ほど乗馬をしていてよかったと思った日は無い。
目の前に広がった新聞記事の上には先週優勝した大会が大きく取り上げられていて、彼女の口から自分の名前が出ただけで胸を打つリズムが速くなる。

このチャンスを逃してはならない。そう誰かが囁いてからの行動はすぐだった。ぱっと新聞を脇に置いてその柔らかな手をとる。


「そういう君はショコラ・ジスターだな?」
「え、あ〜、うん。そうだけど」
「ケンタッキー州には君を訪ねてきたんだ、何故だか分かるか?」
「知らないよそんなの、初めて会ったのに!」
「愛してるからだ、」
「へっ?」


真ん丸になる目。いきなりですまない、戸惑うとは思うが、俺もこんな気持ちは初めてなんだ。そうまくし立てると呆気にとられた顔がだんだんと赤みを帯びていく。優しい緑の瞳には大好物を目の前にした子供のようなアイスブルーの瞳が写り込んでいた。

彼女はまだ火照ったままの頬を緩めて微笑んだ。可愛い。


「えーっと……ちょっとびっくりしたけど嬉しい、ありがと」
「本当に?」
「でも、そのォ〜……お返事するにはまだ早いじゃない?ほら、段階ってものがあるでしょ。まだお互いあんまり知らないわけだし……そう!“お友達から”ってやつでいい?」


ひとつ気付いたことは、ショコラは見かけより我が強いらしいということだ。問いかけのようで実は肯定以外の返事を受け入れる気は無い、そんな表情をしている。見覚えがあるだけにすぐ分かってしまった。もちろん、その申し出を断ることなんてことはしない。

手を握ったまま大きく頷けば、すぐに咲いた満面の笑み。ああ眩暈で倒れそうだ。


「じゃあディエゴ、これからよろしく」
「改めて、ショコラ……お近づきの印に食事でもどうかな?」
「ほんとっ?ならグーグードールのローストチキンがいい!大好物なんだァ」


思えばこの時から、ショコラに関して財布の紐が緩くなってしまったんだ。
自分がかつて貢がせた女たちと全く同じ状態になっているとは気付かないまま……まぁ自覚したところで、彼女のとろけそうな笑顔を見るためだったら安いものだと思ってしまうあたり、重症だ。



お味はいかがスイートハニー
(何度生まれ変わっても君にはかなわない!)





虜にしようとして虜になっちゃったミイラ取りがミイラ状態。



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