「まったく君ときたらどこで育て方を間違ったんだろうね」
「何よ、いきなり」


芝居がかった仕草でジョニィは肩をすくめると、目の前で七面鳥にかぶりつく従兄弟はぷっと骨を皿に落とす。相変わらずいい食べっぷりだ。


「もしかして昨日シルヴェスターとカウボーイ相手に暴れたこと言ってる?」
「それは初耳だな、そのカウボーイも気の毒に……いつも思うんだけどそのダイナマイトはどこから入手してるわけ?」
「本当は山を削るやつを、炭鉱に勤めてる友達の友達の……友達から流してもらってるの。パパには内緒ね」


宝石商も営む彼女の父親が聞いたら倒れそうな事実だ。ショコラの装備している重火器はもちろんそれだけでは無いが、他のは出所が怖いものばかり。
皿のベイクドポテトの香ばしさをコーラで喉に流し込み、ジョニィは意地悪に笑う。


「でも、腕の宝石も銀もパパからのプレゼントじゃあないんだろ?」
「そうだけど?」
「オートクチュールのドレス、ぴかぴかの指輪に革のバッグ、それにその“黒光りする友達”」
「あ〜あ〜あ〜、ジョーキッド!言いたいことはよーくわかってるわ」
「へぇ、流石に自分の評判は知ってるんだ」
「みんな口揃えて言うんだもの!“ダーリン、その真珠にどんな色仕掛けを使ったの?”って。何よ、こんないい子なのにッ」


ソテーした人参にグサッとフォークを突き刺し、胸に抱き込んで悲劇のヒロインよろしくポーズを取る。いい子なのに、なんてショコラの白々しい言葉にジョニィはついに吹き出した。つられて我慢していた向かいも笑い出し、2人は机を叩いてゲラゲラと腹を抱える。


「あとは豪邸のプールサイドで朝食?」
「甘いカクテルは9時きっかりに中庭へ持ってきてもらうの」
「それから最高級のステーキは?」
「「美味しいのは最初だけ!」」


2人は声を重ねて合い言葉のように歌った。
この辺の大地主がショコラに入れ込んで破産したあげく、未だにプレゼントを贈ってくるというのは有名な話。彼女は鼻にもひっかけなかったが、例のバカなボンボンは自分に冷たい女の子が堪らなく好きらしい。

あの出来事のお陰で尾びれ背びれがくっついた噂は、すっかりショコラを「悪女」にしてしまった。


隣では男が少年達に絡んで金を巻き上げようとしている。彼女はぎゃあぎゃあと喧しいそれを横目に人参をぱくりと食べた。


「アタシは期待させないようにハッキリしてたのよ……こんな風にねッ!」
「ゥギャアアアッ!!!」


フォークが男の汚い手をテーブルの足に縫い付けられたのは、ジョニィが止めるより一瞬早かった。


「アンタみたいな汚い男に、どうしてこの楽しい食事を邪魔する権利が有ると思うわけ?」
「こ、このクソ女……ッ!!」

ジョニィはあーあ、と諦めたように背もたれに身体を預ける。ショコラはその剥き出しの脚で椅子を蹴り倒した。


「はぁ?クソはてめぇの餌だろうがこのブタ野郎がッ!!!お望み通りポークミンチにしてやろうかァ!?」


―――ズガガガガンッ

連弾銃が床に向かって火を吹いた。
口の中に熱い銃口を詰められてようやく対応を違えたことに気付いたのか、男はガタガタと青ざめて震え始める。
ショコラは普段では考えられないほど恐ろしくドスの効いた声で、いやに優しく囁いた。


「いい、道でアタシを見つけたらすぐに這いつくばって息を殺しな。今度往来で見かけたら……」
「(コクコクコク)」
「分かった?なんだ物分かりがいいじゃないの。じゃ、ここに“売り上げ”置いたら今日は許してあげる」


5秒以内にね。
慌てて白いテーブルクロスの上に複数の財布を投げ捨て、男は転がるように店を飛び出ていった。
しんと静まり返った店内中の視線を集めて、ショコラは茶目っ気たっぷりに笑う。


「あら、ごめんあそばせ?」


わっと歓声が上がった。
店は本の陽気でバカみたいに騒がしい空間に逆戻り、再び音楽が軽やかに響きだす。
少年達から大好物のローストチキンをカウンターで受け取った従兄弟の姿を見て、ジョニィはため息をついた。


「こんなことしてるから噂が大げさになるんじゃないか」
「いいじゃねーかジョーキッドよォ!ショコラのお陰で威張りくさってたカウボーイも大人しい!」
「スリも一人減ったしなァ」
「お前も飲めよ!今日はいい日だ、乾杯ッ!!」


上機嫌で席に戻ったショコラは少しだけ申し訳無さそうにする。せっかくの食事を台無しにしてしまったことを一応気にしているんだろう。ジョニィはため息をついてチキンを一つ皿から取った。


「これで許してあげるよ、じゃじゃ馬ちゃん」
「分かってる、悪い子だっていうんでしょ?」
「馬鹿だなァ、ショコラが世界一いい子だなんて生まれた時から知ってるよ」
「……ジョニィ!だから大好き!」


感極まると抱きつく癖は治ってないな、と笑ってしまった。彼女が実はロマンティストでウブな女の子だというのは、今のところジョニィだけが知っている。


B級活躍劇
(僕の従兄弟は手の着けられないじゃじゃ馬で、実はとても可愛い女の子)





BGM:but I am a good girl
テーマはありがちチープな西部劇。抜きな!どっちが速いか勝負しろ!もいつかやりたいですね。




Back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -