結局のところ―――そう、結局のところディエゴ・ブランドーがショコラ・ジスターに会えたのはそれから一週間ほど後だった。

 じゃじゃ馬の荒らした足跡を辿り、広大なアメリカ国内をかけずり回った。一方通行の待ち合わせはすれ違い、時には逆走して、まるで妖精でも追いかけている心持ちで彼を振り回す。
 もちろんディエゴも忙しい身であるから、永遠に想い人を探せるわけではない。だから刻一刻と時間が迫る中、水平線の向こうの夕暮れに輝くストロベリーブロンドを見つけたとき、やはりそれは「運命」だと思ったのだ。

「ショコラ!!ショコラ・ジスターだな!?」
「WHAT!!!??……ディ、ディエゴッ!?ワオ、偶然ね!」

 アイスブルーの瞳が丸くなったのを見て、大粒のオリーブも不思議そうに目を丸くした。何よ、と訪ねる前に引き締まった両腕が強く背中に回り、ショコラは突然のことに思わず言葉を失う。
 ディエゴは笑っていた。

「そうだな、「偶然」だったらもっと運命的だ……残念ながら、俺は君を見つけるまでにずいぶん時間がかかったけどな」
「ええ?アタシのこと探してたの!?な、何か約束してたっけ?用事とか?」
「用事は、そうだな」

 事の発端といえばバレンタインデーだったなと思い出す。もはや何の名前もついていない日付に跨いでしまったが、探し求めた妖精をつかまえた特別な日として名前をつけたいくらいだった。
 その彼女がインディアン・カジノで大勝ちしたあとの足取りは千鳥足だった。探すのに必死で彼女にぴったりの贈り物は結局見つからず、花束は枯れてしまいそうだからと用意はできなかった。
 しかし流石に手ぶらではない。
 ディエゴは少ない荷物の中から、到底彼が身につけそうではないカウボーイハットを取り出す。革製の真っ赤なそれを見た瞬間、ショコラは大声で叫んだ。

「ああーーーーーっ!!!それ!!インディアンカジノの景品ッ!!」
「これが欲しかったんだろう?」
「そうッ!!一目惚れだったの!多分ヴィンテージなんだけどド派手なレッドにターコイズストーン!大勝ちしたから絶対持ち帰れると思ったのにスっちゃったのよォ〜!!」

 ショコラはさながら恋する乙女のように両手を組んでため息をついた。彼女に一目惚れしたと言わしめたこの帽子が憎らしいと思わないでもないが、少女の丸い頭の上にそれを乗せる。
 一瞬きょとんと目を瞬かせたあと、宝石のように明るくなった瞳の輝きと弾けるような笑顔は、ディエゴの心をこの上なく満たした。

「えっウソ、くれるの?!」
「君以上に似合うカウガールがいるとは思えないしな」
「キャ〜〜!!!ディエゴ・ブランドーッ!!あんたって、あんたって本当に最高よッ!!」

 感極まって首に飛びつき、じゃじゃ馬娘はジョッキーの頬中にキスを贈った。思いがけない柔らかな感触に柄にもなく赤面してしまった青年の表情を、浮かれ調子の少女はまんまと見逃す。
 金も時間も食った。慣れない旅路は骨が折れた。その全ての苦労がチャラになる。目の前に宝の山を積まれても、彼女の真夏のハイビーチのような眩しい笑顔に敵わない。

 帽子を被って振り返ったこの世で一番待ちわびた少女の名を、ディエゴは噛みしめた。

「どう!スーパースターみたい?」
「ああショコラ、君の笑顔は世界に一つだ!」


You are my Valentine!!
-----Happy Valentine's Day 2014





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