「Get out of here!!!アタシがキッチンで可愛くチョコレート溶かしてってマジで思ってる?」「ってなカンジでケラケラ笑ってたっけなァ」

 その様子を想像すれば間違いなく可愛いのだが、調査結果と称して伝えられた事実が(薄々予感していたとはいえ)グッサリと胸に刺さった。談笑の中での茶化した返事なのかもしれないが、それだけに説得力がある。
 ディエゴ・ブランドーが落胆の中投げるように金貨を渡せば、頭の緩いアルコール中毒ども(アントン・ダビッドソン&ウォーレン・ダビッドソン、ショコラの「近しい身内」)は喜び勇んで酒をアレもコレもと片っ端から頼んで店主の目を回していた。
 まだ肌を刺す冷気が、換気のために開けられた窓から流れ込んでくる。妙にイラついて力任せにピシャンと閉めたら、こちらを色目で窺っていたブルネットの女が驚いて目を逸らした。

(ああ神よ、なぜ彼女に料理の才を与えなかったのか!)

 いや、この場合は才よりも気概というか、下手だったとしてもそれはそれで可愛らしいから構わないのだ。しかしキッチンに立つことすら有り得ないこととして笑ってしまうとなれば、この季節特有の贈り物は期待できそうになかった。
 2月14日、聖バレンタイン。
 もちろんアメリカ合衆国の大統領は関係無い。この日になれば天才ジョッキーの名を欲しいままににするディエゴの元へ無尽蔵に贈り物が届く。チョコレートを始め菓子類に花束に時計に服に……しかしそんなことは、今はどうだっていい。
 目の前に宝の山を積まれても、彼女の真夏のハイビーチのような眩しい笑顔に敵わない。この甘い悔しさが、せめて彼女の驚いたような笑顔に変わるなら。
 ブランデーグラスに揺れる琥珀色のブランデーに、情けないほど恋を患った顔が映る。

(そうだ、それが良い。ストロベリーブロンドに金の髪飾りも、あの瞳みたいにキラキラしたアクセサリーも、豪華なバラの花束もきっと似合う)

 愛するお転婆の跳ねっ返りを喜ばせるアイデアは湯水のように溢れていく。しかしどれも貝殻を合わせるように合わさらず、やがて居てもたっても居られずに金貨を数枚置いて酒場を飛び出た。
 天には抜けるような青空、その流れは早く、まるで言うことを聞かない馬が自由奔放に駆けていくようだ。

 さて、想い人と贈り物を探さなければ。


▲▼


「フフン!こっちゃダブルリーチだぜピンクのお嬢ちゃん、何処をどうやって勝とうってんだ?」
「はぁーン?コッチだってダブルだけど?それから間違えンじゃあないッ!アタシの髪はストロベリィ〜〜ブロンドよ!次間違ったらブチ抜いてやるからッ!!」

 2月13日、まだ朝焼けで空が桃色と水色の間だったころ、ショコラ・ジスターはジョージア州までバイクを飛ばした。テネシー州のあたりまでは仲間と連れたっていたのだが、いつの間にやら単身インディアン・カジノへ乗り込み、一攫千金を夢見てチェロキー族の背の高い店主とビンゴに興じていた。
 タテ・ヨコ5マス、合計25個のマス目とガラガラで勝負する運試し。最初は手持ちのチップから少ないレートで賭けていたが、追いつ追われつの稀に見る好勝負にビンゴ場は沸き立ち、最後には全財産を賭けての大博打となった。

「よっしゃァッ!!12番来い!12番12番12121212ィッ!!!」
「バッカね最終的に勝つのはラッキースターラッキーストライクラッキーセブンッ!!7番来い来い来い〜〜〜ッ!!」

 会場は熱気が膨れ上がる。大きな野次が飛ぶ。面子と首をかけた勝負。そしてガラガラの口から転がった運命の数字に、割れんばかりの歓声が上がった。


▼▲


「まァ〜いくらアイツでもアメリカ国内にゃあ居るだろ」

 無責任にそう一蹴して、シルバーブロンドを短く刈り上げたザカリー・シルヴェスター・ハーレーは再びスパナを握りバイクの整備に没頭し始めた。保護者気取りのくせに居場所も知らないのか、と憤りを隠さずに背を向けて、ディエゴはさらに南へ移動する。
 テネシー州の連れとは一緒じゃない。では一体何処へ行ったのか、愛しのストロベリーブロンドの行方は未だ掴めない。だがディエゴもこの短い旅の中でショコラの探し方を分かりはじめていた。

「昨日騒がしかった場所ォ〜〜?」
「何かあったか、昨日は?」
「そういやテネシーの保安官逮捕されてやんの、それか?騒がしかアなかったが」
「違うな……」

 彼女の行く先々では、大抵騒ぎが起きている。
 つまりその地で良くも悪くも最も盛り上がった場所を探せば、高い確率で「ヘビイチゴ」にブチ当たる。酒場の赤ら顔相手に腕組みをしながら、ジョッキーブーツのつま先は待ちかねて不機嫌に床をタップした。

「インディアン・カジノ、スゲエうるさかったな昨日の晩!誰か破産でもしたんじゃあねえか!?」
「ああ、盛り上がってたよなあ!」
「それだ!場所はッ?」

 酒代を叩きつけて再び愛馬シルバー・バレッドにひらりと飛び乗る。ジョージア州ノインディアン・カジノでショコラが破産したのではないかと思うと気が気でないが、とにかく目指すはジョージア州だ。
 日が落ち始めている。すぐそこに迫る明日の夕闇を背に、薄桃色のもやが空にかかっていた。









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