アパラチアの山岳地方に伝わる独特の民芸品が伝わるこの地域。ケンタッキー・アパラチア。職人や芸術家が集う街で一人、愛馬の傍で待つ男が一人いた。 ゴールドの鋳物のような光沢感を持つブロンドは、乗馬による日差しで毛先が少し痛んでいる。落ち着かない様子で時計台を見上げる瞳はアイスブルーのやや冷たい色だ。 ―――ドゥルルルル……… 「……!!」 遠くから嘶くエンジン音にディエゴ・ブランドーは顔を上げて周囲を見渡した。愛しいストロベリーブロンドがどこから登場するのかと、まるで熱心はファンが女優を待つように胸を高鳴らせる。 しかし周囲の道には特に人影は見えない。では音はどこから、と思った矢先、バリバリと物をなぎ倒す音が背後から聞こえた。 そして飛び出した巨大な影! 「な、」 「イヤッホォオオ〜〜〜〜ッ!!STRIKE!!!!!!!DDDDDDDDDD!!!!!!よっしゃア見てよ時間も場所もピッタリッ!さっすがショコラちゃん天才ィ〜ッ!!」 「バカ!!危うくこんな昼間っから遭難するところだッ!!」 「しなかったじゃあないのよ、All light,All light」 親指と小指を横にしてシェイクさせる動作をするショコラは、いつもの服装に星のバッヂのついた赤いテンガロンハットなんて被っている。いつもと違う恰好にドキリとする余裕もなく、ディエゴは後ろに座る男に幽霊でも見たような顔を向けた。 ジョニィ・ジョースターはふてぶてしく視線を向けて、嫌そうに目を眇めて待ち人を指さす。 「待ち合わせってよりによってコイツ?」 「よりにもよってとは何だ!お前こそ何でこんなところにいる、ジョニィ・ジョースター!」 「あ〜〜ッ、さっき暇そォにしてたから拾ってきたのよォ〜〜〜っと」 その言葉を聞いてディエゴは、昨日「今度一緒に出掛けないか」と誘ったときのショコラのOKが、デートへの了承でなかったことにハッと気づいた。 呑気に銃をクルクルと指で回しては、ガンマンを気取って腰のホルダーに恰好をつけて直す少女の手をとって、ディエゴは必死に訴える。 「ショコラ!」 「ハァイ?」 「いいか!これはデートなんだぞ、こんな保護者同伴でどうするんだッ!」 「「誰が保護者だ!」」 邪魔者を指さして怒鳴るディエゴに、名前に“スター”を持つ従兄弟は一斉に声を上げた。ショコラはもう保護者が必要な歳ではないと憤慨し、ジョニィだってこんな面倒な子供はいらないと舌を出す。 しかしそう言われては面白くないのか、からかうような口調で従兄にちょっかいをかけはじめた。 「何よォ、Dad Dad Daddy!!可愛い娘が欲しいでしょ?」 「君の父親なんて気苦労が多そうなのはゼッタイに嫌だね」 「Boo!!!言いやがったなァ!」 甘えるように背中にもたれてきた従妹をジョニィが溜息をついて手で押し返すと、ショコラは怒った素振りで掴みかかってそのまま団子になって抱き着く。 堂に入っている仲睦まじげな様子に、置いてけぼりにされているディエゴは眉を吊り上げて両手を腰に当てて憮然とした表情をつくった。 「……それで!ブルーグラスに行くんだろうッ!?」 「あ、そうそうッ!ブルーグラス・ブルース&バーベキュ〜〜〜ッ!!フェスティバルしてンだってさ、きっと絶対美味しいものがあるッ!!花の都のハリウッド、ステキな男がいっるかしらァ〜♪」 ブルーグラス・ブールス&バーベキュー地域は、ケンタッキー州でも3番目に大きなその地域は音楽と美食の町だ。ショコラの特にお気に入りの場所である。 バンショーでも弾いているつもりで音楽を口ずさみながら軽やかにオートバイにもう一度跨ったショコラは、興味の対象がすっかりそっちに移ったのかエンジンを再び温め直していた。 恐らく車いすはどこかに置いてきたのだろう、アシを失ってはどこにも行けないジョニィはもちろんオートバイに乗ったまま。 「…………」 「…………」 後ろ向きに乗ったターコイズブルーとアイスブルーの視線が合って無言でにらみ合うと、ジョニィは身体の向きを変えてフンと顔を逸らした。それが癇に障ったディエゴが何か言ってやろうと口を開けた瞬間、けたたましいエンジン音が雄大なアメリカの上空に響いた。 「うおォッ!?」 「さァーーー地平線までブッ飛ばすわよォッ!!Are you ready guys!!!!???Hooooooooooooray!!!」 「し、シルバーバレッド!」 必死にしがみついたジョニィもお構いなしに、前輪を思い切り浮かせて爆走し出したオートバイを追いかけるため、ディエゴも慌ててシルバーブレッドを走らせる。 まさか今日一日奴と一緒なのか、とお互いに思う男達の心情を知ってか知らずか。少女の楽しげな笑い声と一緒に、腕のスマイルマークのブレスレッドが風に揺れた。 ミスマッチ・ホッピングシャワー (世界一酷いデートの始まり!) Back |