▼DIOで愛しくなっちゃう5題+1





「出かけるぞ」
「……私の目ざまし時計によると深夜25時なんだけど」
「もう眠いのか?ガキじゃああるまいし」

馬鹿にしたように鼻を鳴らす顔が憎たらしい。
一世紀前くらいに人間を超越したらしい恋人は、当然お日様が姿をくらませてからが活動時間。
私もまだ眠いわけじゃないけど、今からどこに行くというのだろうか。

「別にいいけどさ、DIO日本のお金持ってるわけ?」
「……W、WRY……まぁ、夜の散歩も悪くないぞ」
「さんぽ……」

焦るように目をそらす奴にきゅんとしてしまった私を誰か殴ってほしい。さっきまで高級ワイン飲んでた男が金無いから散歩って……可愛いなんて思ってない思ってない。
念じつつも、手は勝手にDIOの手をとってしまっている。ああ、毒されている。

「外、見た?」
「いいや」
「『月が綺麗ですね』」
「……ああ、確かに、『月が綺麗』だ」

しまった、DIOは読書家なんだった。自分から仕掛けたのにそのまま返されてしまってはなんだか気恥かしい。冷たい手が熱い私の手を笑っている気がしたけど、その強い拘束から逃げることなどできるわけもない。

夜は彼の時間だった。


深夜の0円デート






肩が重い。
という話をすると、何かオカルト系の話に聞こえるだろうか。疫病神か悪霊ならスタンドで追い払えそうだが、こっちの憑きはそうもいかない。

首筋にかかる細い金色の巻き毛がくすぐったい。形のいい唇が背中の付け根の、ちょうど星型のアザがあるところを甘噛みされる。
前髪ですっかり表情は見えないが、その口元は不機嫌に歪んでいた。

「DIO、重いんだけど……」
「やかましい」

にべもなく切り捨てられる。
ここまで彼が不機嫌になるようなことがあっただろうか?今日はすっかり遅くなったから帰ってきて話すのもこれが初めてに等しいんだけど。そういえば昨日も一昨日もそんな感じだったか……。

「あー」
「……何だ」
「もしかして寂しかった、とか」
「!!」

ぎくりと背中側が強張る。お腹に回っている腕がきつく締まるのがわかって笑いそうになった。が、今笑ったら面倒なことになりそうなのでなんとか我慢する。

「違う!自惚れるなッ!」
「……なんだ、嬉しかったのに」
「うっ……」
「私は、寂しかったけど」

とたんに柔らかな感触が首筋から唇へ。
せっかくお膳立てしたのに、それを口にするより口づけで誤魔化してしまおうなんて、本当に。


寂しがりの意地っ張りの私の恋人




「見てこれ、MJの新曲だって」
「ほう。また取り寄せるか」
「……DIOがポップとか聞くのって未だに違和感あるんだよね。クラシックとか聞いてそ……んッ」

雑誌を覗きこんだDIOの指が耳を掠めると、イヤに高い声をあげてしまった。ばっと耳を抑えて振り返ると、非常に悪い顔をした彼がいた。
どう見ても、新しいオモチャを見つけた子供の目だ。

「何だ、猫の真似か?」
「ちょッ、やだってば……うっ、うゥ」
「声を抑えるんじゃあない」

鼓膜を直接撫でられるような刺激に背筋がぴんと伸びる。にゃあにゃあと猫の鳴き真似を低い声で囁かれたらもう笑いたいやら泣きたいやらで、ソファーからはいずるように逃げだした。

「どこに行く、私の可愛い愛猫よ」

当然のごとく捕まり、肩を押さえられて圧し掛かられる。しかしよく考えて欲しい、190cmを超えた男に乗られて平気な女がいるだろうか?いや、いるはずがない!

「重い〜〜ッ!!」
「フハハハハハハ、無駄無駄無駄ァッ!!」
「早くどいてってば……〜〜〜ッ」

可哀想に骨が軋む音が身体を襲ったような気さえした。胸が圧迫されて苦しいあまり蹴飛ばしてしまうまで、あと5秒。


じゃれるつもりなら体格差を考えなさい





一緒に住んでいるとはいえ、私達が実際共に過ごす時間というのは短い。


朝起きる時は胸にもたれかかっているか、腕に頭を乗せているかどちらか。今の時期なんかは彼の低い体温が非常に涼しくって離れがたい。

おはよう、と言ったきり寝惚けたままのDIOを置いて朝食待ちのソファーに座れば、隣ではジョルノが先に起きてテレビを観ている。
DIOが来るならこのタイミング。私とジョルノにキスをしておはようともう一度を言うと、テレンスとすれ違いざまにメインディッシュをひとつつまんでお休み。

「眠いなら寝てていいのに」
「何を勿体無いことを」

気だるい顔はずいぶん色っぽい。
ジョルノはいつも通りにクスクスと笑っていた。


帰宅して迎えられてからは、もう彼のなすがままだ。疲れで何もやる気が起きないので、世話を焼いてもらえるのは助かる。
膝の間に乗せられたままテレビを見つめていると、帰ってきたジョルノがぽつりと言った。

「パードレとマードレって、いつもひっついてますね」
「何だ、寂しいのか?」
「こっちおいで」
「別にそういうわけじゃあ、ないんですけど……」

なんだかんだで近くに寄ってくる息子が可愛い。昔は私に似ていた黒髪も、不思議なことに今では見事な金色になっている。なんとなく旋毛にキスをすると、ジョルノはくすぐったそうに身をよじった。
親子で団子になってテレビを観ている私達を見て、テレンスが遠くで小さくためいきをついた気がした。

疲れた時には甘いものより家族だ。


どこかで触れていないと落ち着かないの





金曜日の夜。草木も眠る丑三つ時、寝室を叩く音。扉の向こうには俯いた髪の長い女。寒気がするというのは、別にそういった類の恐怖というわけではない。
そうっとドアノブを開くと、突如。

「う……ン、ま、待て」
「…………」
「待てというのに、っは、ん……」

こんな大男が柳腰の女にキスをされてかがんでいるなんて滑稽なことだ。無言のまま引き寄せられた襟元が締まっていささか苦しいが、この際そんなことはどうだっていい。

医者というのは大層忙しいもので、週末は下手をすると2日3日は徹夜というのがザラにある。ネアポリスという土地柄も少しあるだろうが、それは彼女の仕事ぶりで左右できる忙しさでは無いのだ。

故にそういったフラストレーションが爆発する時期というのも、存在している。
……しかしキスがやたらと上手くなるというのは一体どういう原理なのか。腰が砕けそうだ。

「……DIO、」
「な、んだ……」
「ただいま」
「!……おかえり」

少しだけ口の端を上げる彼女の表情が壮絶に美しいものだから、この時ばかりは口ごたえができない。

そのために先ほどまで口を開かなかったかと思うと中々可愛らしいものがあるじゃあないか、きっとその所為だ。誰に対してでもなく言い訳をしてから私はもう一度目を閉じた。


おかえりとただいまは一番最初にあなたに言いたい







珍しく、彼が白いシャツなんて着ているからかもしれない。
その黄金のたてがみが存外(思えば不思議でもなんでもない配色なのだけれど)白という爽やかな色に合っていて。今日ジョルノの部屋にいいかと買ってきた水色のシーツがあんまりに青空に似ていて。おまけでもらってしまった向日葵の鮮やかさが眩しくて。

(……かわいい)

寝顔まで気を抜かず凛々しい眉だけがアンバランスで、吹き出しそうなのを押さえながら着々と準備をする。あれは完璧、これも完璧、では後は……。

―――パチン

「……ッ何だ……?」

照明の明るさを最大にしていきなり付ければ、太陽に似た光に吸血鬼はぎゅっと顔をしかめる。それは真夏の眩しさに目を細める子供によく似ていて、鮮やかな色がより一層強く主張しあって。
限界だった。

「……ッあははは!!!」
「そこにいるのは……お前かッ!!」

止まらなくなった笑い声の主を、サマータイムさながらのカラーリングの男は捕まえてベッドに引きずりこむ。勢いよく沈んだ空色のヴェールにペンキで塗りたくったような黄色の花びらが舞っていた。
逆行の中、彼はまるで太陽を背負っているようだ。

「爽やかなDIO……ッ」
「なんだ貴様、いきなり入ってきたかと思えばまたくだらんことをしおって!」
「向日葵、貰ったんだよ。黄色が誰かさんに似てるでしょ?」
「私のことを言っているのならひどい皮肉だ。日中あの忌々しい太陽を見つめていては数分ももたんうちに消滅するのだぞ」
「あははは!」

笑いごとじゃあないんだが、笑えるものは仕方ない。金糸をなびかせて駆け回るあの子がフラッシュバックする。
青空の下彼と戯れたことなどないのに、懐かしい気分になるのはなぜだろうか。麦わら帽子で釣りをするDIOなんて想像したらもう笑いが止まらなくて、涙さえ浮かんでしまった。


憧憬の眩さの中

これは別に、メランコリックの所為じゃあないよ。笑いすぎただけだって。きっとね。


Word by 207β




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