すらりとした指先が産毛を撫でるように、そっと腰を這う。背中には柔らかな感触が押しつぶされて密着し、耳元で艶やかな吐息。
美しいという言葉を何度重ねても足りないような女が「好きにして」と言わんばかりに背中にしなだれかかっていたら、靡かない男はいまい。

「DIO」
「何だ……?」
「後ろのファイル取るからちょっと立つよ」

まぁ、靡いてないといえば嘘になるけど。
ショックを受けたように俺を見るDIOを通り過ぎて青いクリアファイルを取り、何事もなかったようにデスクに戻る。
わなわなと怒りに震えるのが背中越しに伝わってきた。あ、爆発するかも。

「貴様ッ!!本当に気付いてないのかッ!!」
「いや、居るのは知ってるよ……声かけただろ。構って欲しいならちょっと待ってなよ、まだ仕事が終わってないんだ」
「な、な、き、貴様という男は……ッ!」

本日、徹夜3日目。フラストレーションはピーク通り越して身体は屍に、頭は少々おかしくなっている。ここ最近ろくに触れ合ってないからかDIOがそろそろ我慢できないというのは理解できるが、如何せん仕事が終わらない。今万年筆を置いたらベッドに直行させられるのは目に見えているので手放せないでいるのだ。
宥めるように髪を撫でたつもりが、するりと膝から上に撫でられる感触。

「ン、」

うなじからすこし露出した背中へと口づけたDIOは、返ってきた反応にしてやったりと笑う。
あまり暑いのは得意じゃあないというのに、この部屋は少しだけエアコンの効きが悪い。まだ外は雨だろうか。このままではじっとりと服の下を伝う汗まで舐められてしまいそうで、止めていた息を細く細く、吐き出す。
得意げな絶世の美女を射止めて。

「どうだ、お前がその気にならんというなら――――ッンン!?」
「……、はぁ……」
「ン、ぁ……ふっ、んン……ッ」

金糸を指で引っ掛けて、ひどく強引だとは自分でも思いながらその柔らかな唇を追う。のびやかな背骨を反らせるほと圧し掛かるように、貪るように、熱い舌を逃がさない。結果は分かり切っていたのにと誰かが笑う。
本当に、やっとの思いで唇を離した。

「……ほら、キスだけでこれだ」

吐き捨てるように言った言葉は、彼女に対してではない。
驚きと熱に浮かされた赤い瞳のすぐ横にもう一度キスを落として、その抜けるような肌からそうっと手を離す。これだけでも気が遠くなるほど重労働だ。無論、気持ちの面で。
この人は本当にどんな表情をしていても宝石をまき散らしたように美しいな、と今更頭のどこかで考えながらかすれた声で言った。

「2,3時間で終われる自信ないよ、俺は」
「…………ッ!!」
「だからもう少しだけ待っててほしい。全部終わったら、何時間でも愛させてくれ」


真っ赤な林檎を頬張る
それからすっかり大人しくなったDIOが心底可愛くてぶっちゃけ仕事を投げ出したいとか、今の俺は本当に頭がおかしい。




仕事>性欲が逆転しそうな旦那。







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