最近、杜王町にまた住人が増えた。

未だ信じがたいことに、俺の甥だという空条承太郎さんを訪ねて来た彼女は、一連の事件が終わるまでという期限付きでこの町に滞在することになった。

昭子さんを形容するとしたら、まさに「綺麗なお姉さんは好きですか」と言わんばかりの女の人だ。

自分の母親や同年代の女の子とは違う"大人の女"の香りが、健全な男子高校生である俺のハートをくらくらと酔わす。まるで親の目を盗んでブランデーを舐めるような、そのイケナイ感じがまた怖いくらいハマる要因だった。





「ン、美味しい」
「そっ、そうでしょー!ここは俺の"行き着け"なんスよ!」
「本当、こんな美味しいお店初めてよ」

初めて、という言葉に耳の裏がカーッと熱くなるのが自分でわかった。くう、また何でもないような台詞に振り回されている。昭子さん、もしかして分かってやってるんじゃあ、無いよな?


勇気を出して昼食に誘ったはいいが、如何せん自分が知っている店といえばカフェかトニオのレストランぐらいしか思い当たらない。
そこで先にトニオに事情を話して頼んだところ、恋に関しては敏感なイタリア人。トニオは気を利かせて店を貸切にしてくれ、なおかつ普通の(つまりスタンドで作ったのではない)美味しい料理を提供してくれていた。


(お陰でいい雰囲気なのによォ・・・俺ってば情けねえ・・・!)

自分でも信じられないくらい鼓動が速いのが向かいの想い人にもバレてしまうんじゃないかと思って、誤魔化すようにグラスを掴む。


「あ、待った」
「・・・っッ!ゲホッ!!な、何だァ?」

「それ、私のワイン」


制止も聞かずに一気飲みしてしたのは水でなくワインだった。予想していなかったアルコールの味にに思い切りむせてしまう。
平然とナプキンをこちらに渡してくれる昭子さんに、今度は目に見えて顔が熱くなる。ク、クールだぜ・・・。恥ずかしさと情けなさで泣けてきそうだ。頭が回らないのをアルコールの所為にしてしまいたいが、それだけじゃあないのは自分が良く分かっていた。

(くぅう〜〜ッ!チクショウ、カッチョわりいぜ・・・!)


「大丈夫?仗助君、お酒弱いのかもね」
「大、丈、夫、です!」
「(涙目・・・)」


そう?と言いながら昭子さんは食べかけだったボロネーゼを器用にフォークに絡めて、邪魔にならないように長い黒髪を片手で耳にかけながら口に運ぶ。


俺は思わずごくり、と生唾を飲んだ。

艶やかな黒髪と白いうなじとか、きっと口紅が引かれているんだろうチェリーみたいな艶々の唇とか。口の端についたソースを舌が舐めとる仕草に目が釘付けになった。
体が硬直して動かない。熱に浮かされた脳みそが、一部だけ変に活動している。い、色っぽい。あー好きだ、好きだ!想いがハートで見えるなら、俺の周りはきっとハートだらけになってるだろう。恋って、本当に盲目だ。びっくりするくらい、その人しか見えなくなる!これが、これが恋ってやつなんスか、承太郎さん!!なんて、俺は頼りになる甥っ子に心で縋るほど余裕を失っている。

綺麗なエメラルドグリーンの瞳とばっちり目が合って、俺の理性ってやつがどこかに吹き飛んでしまった。


ガタリと席を立って、細い、柔らかい肩を両手で掴む。


「あら」
「昭子、さん・・・」
「なに?仗助叔父さん」
「俺、俺っ!

・・・今、なんて言いました?」

「承太郎が甥なら、私は姪でしょ?」


にっこり。くらくらするくらい綺麗な笑顔で何でもないように爆弾を投げかけた昭子さんに、熱くなっていた頭が急速に冷える。

(えっと、何だって?承太郎さんが甥・・・つまりジジイの孫になるわけだから、姪っていうなら、承太郎さんの姉、か妹。いや、年下だから妹か。承太郎さんの妹・・・。どうりで美人なはずだよな・・・。俺の姪っ子・・・。

あれ、叔父と姪って、そういう関係になっていいんだっけ?)


さっき投下された爆弾が爆発した。


「なっ、は!?ええぇえええぇぇえ!!!?」
「あれ?言ってなかったっけ・・・。空条承太郎の妹です。息子は今年で13になります。改めて宜しくね」
「あ、はい。って、息子!?け、結婚・・・」
「うん、してるよ」


休む暇も無く再び投下され爆弾も直撃してしまった俺は、眼前に掲げられた結婚指輪プラス昭子さんの幸せそうな微笑みのダブルパンチでそのまま泣き出しそうなくらいショックを受けた。


し、失恋だ・・・。
完膚なきまでに、失恋である。

しかも相手が近親、その上既婚者の子持ちだって言うんだから笑い話にしかならない。恋だ愛だハートだと俺が1人で盛り上がっていただけで、昭子さんにはただの親戚の男の子ぐらいにしか思われてなかったわけで、ある。

悲しいよりもむしろ恥ずかしい。



「で、仗助くん何か言いかけてなかった?」
「・・・ッスよ」
「え?」

「何でも無いッスよおおおお!!!」


トニオに財布を投げつけて店から飛び出す。終わった・・・俺の初恋!まだ告白もしてない内に・・・!!唖然とした憧れの人(驚いても美人とかずりぃ)も涙ですっかり滲んでいたが、その輝きは依然変わらないままである。そう、昭子さんは何も悪くない。悪くないのだ。

とりあえず何か、海に向かって叫びたかった。



「バッカヤロォオオ〜〜〜〜ッ!!!」




さらば愛しき君よ
実際その笑顔は、「にっこり」というよりは「にやり」だったわけだけど、恋っていうのは如何せん盲目でして。






「・・・いいのか、泣いてたぞ」
「まあ、傷が浅い内に済んで良かったと思ってよ。
・・・それにしても仗助君が可愛いからちょっと浮気しても良いかな、とか思っちゃった」
「・・・」
「・・・冗談」






3部連載終了後、生存者多数のパラレルワールドにて。
純情少年仗助の初恋をクラッシュするお姉さん。仗助にはこれくらい純情であって欲しい。




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