「ああ主よ」


どうかわたくしに御慈悲を。恍惚とした声で許しを乞うその姿に、こういうのを身の毛がよだつと言うんだろうか――などと考えてしまうのは余裕からでは無く、ただの逃避である。

だから宗教って怖い。


鉄の処女(Iron maiden)



人が増えたはずなのに、静けさばかりが耳につくのは何故だろうか。ソファーに寝転がったまま長いため息を吐き出して、エジプトに向かった家族を思う。

きっと私は寂しくて不安で、誰かに助けてほしいんだろう。こんな時にも父は帰ってこない。当然だ。自分が倒れたことはあの人には言わないでほしいと、健気なことに母自身が言っているのだから。


「……電話くらいしたらいいのに」


と、誰も聞いていないのを承知で口に出してみる。部屋に自分の声が反響して、余計空しくなった。家の中は嫌に静まり返っている。


そう、物音一つしないほど。



「…………?」



下ではSPW財団の医師たちが数人がかりで母の治療にあたっているはず。確かに数時間眠っていたが、まさかその間にごっそりといなくなってしまったのか?無いとは思うが……少し迷ったあと、ややあって腰を上げた。




静寂というものは、理由もなく壊すのがはばかられるもの。

抜き足、差し足、忍び足
無意識に足音を殺して、猫になったように寝室まで歩を進める。
寝室よりも手前の茶室でようやく人の気配を感じて、何だいるんじゃないかと障子に手をかけた。


「――、――」
「――――……!」


「空条昭子はどこ?」



その明らかな敵意に、「母さんの様子はどうですか」という言葉が口の中に消えた。


厳格なシスター服に身を包む女性が、ほんの数ミリ開いた隙間から覗いている。褐色の肌、落ち着いた柔らかい声……凍てつくような碧眼だけがひどくアンバランスだ。
彼女から漂う錆びた鉄のような臭い。暗い隙間から見えるのは、ぞっとするほどの惨劇であった。

全身の血が凍ったような感覚が背中を抜ける。



「DIO様は攫ってくるようにとおっしゃったけれど……」


修道女は歌うように続ける。


「“ちょっとした事故”で死んでしまうような者など、あの方はご所望でないはず。
―――DIO様に見初められた小娘など、マリアは決して認めない!!」



畳を革靴が踏みしめる音が遠ざかるのを送ってから、私は弾かれたように走り出した。


こちらから回り込めば、あの女より早く母の元へ辿り着ける。汗でふやけた頭でもこれだけははっきり分かる―――何がマリアだ。あんな憎悪にまみれた聖母が居てたまるか!絶対にあの女を母さんに会わせちゃいけない!




そっと中を覗いて部屋を確認したら、滑り込むように素早く入って障子を閉めた。
穏やかに寝息を立てている母の手を握る。ほっとして体勢を崩してから初めてがくがくと膝が笑っているのに気が付く。


彼女は……承太郎達が追っている「DIO」とかいう男の仲間なのだろうか。私を“ちょっとした事故”で殺す気らしいから、母さんは私から離れた方が安全だろう。




「ごめん、母さん」



でも一人じゃ怖くて戦えないから、悪いけど付き合って。



▼to be continue・・・
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