皇帝と吊られた男(Emperor and Hanged man)3


走り去ったトラックと一時の相棒を見送ったホル・ホースは、散らばったガラスの破片を踏みしめて新しい煙草をくわえる。

誰かと組んで初めて実力を発揮すると自負している彼は、軽薄そうな見た目と違い一人の時はかなり慎重だ。それはこういう世界で生き残るための手段であったし、現に今までそうして生き延びてきた。

飛び込んできた足音を察知して素早く身を隠したのも、そんな長年の勘によるものだ。


「ア、アヴドゥルッ!!」
「!!」
「ま、まさか……いや、そんな……馬鹿な……!!」


仰向けに倒れた仲間の体に駆け寄ったのは、案の定ジョースターだ。その後ろには承太郎と彼が手を引く……。


(誰だ……?)


記憶を辿っても報告には無かった少女の姿にホル・ホースは眉を寄せた。
もしスタンド使いならば情報が無いのはかなり不安要素だ。例えばアヴドゥルのように銃そのものを溶かして不能にしてまうような能力だとしたら……。

それに、美しい花には棘があるものだ。涼やかな作りの顔は、スタンド使いの美女を何人か知っているホル・ホースにとって不穏な何かを感じさせた。


(ま、恋人にするなら大歓迎だが……)


「医者に見せた方が早い、行くぞ!」
「ああ、すぐ救急車を……」
「……任せて」
「昭子!?」


すこし離れていてもよく通る声だ。初めて口を開いた少女……名前は昭子らしい。
承太郎と繋いだ手をそのままに、アヴドゥルの腕にさっと手を置く。怪訝そうな顔をする二人に、昭子はどこか有無を言わせないような表情で返した。


「私のスタンド能力、ついでに見せるよ……いい?」
「……わかった!昭子を信じよう」
「ありがと、おじいちゃん。……行くよ、掴まってて」


3、2、1
カウントダウンのさなか、故郷の海を思わせる透き通ったグリーンがこちらを向いた気がして、何故かギクリとしてしまった。


「0」


そして四人が、消えた。




「……はァ!?消えただとォ!!?」


身を乗り出して確認しても、そこにはまだ乾ききらない血痕しか残っていない。忽然と消えてしまった一行を見たのはホル・ホースだけだった。

昭子、という名前には聞き覚えがある。恐らく空条承太郎の妹だ……DIO様が『武器庫の聖母』に誘拐を命じたはずだが、何故カルカッタに?

そしてあの能力!ワープか何かか……?だとしたら、相性はこの上なく悪い!もしスタンドに攻撃力が無かろうと、攻撃を察知して背後にワープすればいくらでも手段はある。戦闘において居場所を悟られないのは大きな強みだ。


「ンン〜……参ったなこりゃ……“シンプルなスタンドほど強い”って奴か……まさかあのシスターかぶれもあのお嬢ちゃんにやられたんじゃあるまいな」


火をつけたばかりの煙草を噛み締めて苦々しく潰す。シンプルだということは、使い方次第で化けることに他ならない。
……頭脳派だろうか?いや、あの女の武器攻撃を退けたとしたら、パワータイプだという可能性も……。


そこまで考えたあと、この行為の無意味さを思い出し頭を振って中止した。
そもそも、だ。


(俺のハジキは女には向けねえと決めている!)


ホル・ホースが女には優しくすると自分に誓っているのは、不細工だろうが美人だろうが、女というものを尊敬しているからだ。だからたとえ昭子が彼の前に立ちふさがったとしても、ホル・ホースは戦えない。戦う予定の無い相手のことを考えても実りがないだろう。


そう結論づけてまた新しい煙草に火を点ける。煙がくゆるのを眺めると心が凪ぐように落ち着いた。



今回の目標はとりあえずポルナレフと、あわよくば花京院を打破することだ。

的は絞らねばならない。


拳銃は狙いを定めなければ撃てないのだから。


(ま、俺の弾は曲げられるがな)


むき出しの地面を歩くには少し向かない靴が、土の色を変えながら足跡を残していく。だがやがて風が砂埃を浚い、そこにもう彼がいたという痕跡はない。

笑ったホル・ホースの暗殺者としての顔を見た者は誰もいなかった。




▼to be continue・・・
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