"18歳の殺人鬼、アメリカ社会の闇が顔を出す!"
 スキャンダラスな大文字で見出しにされたニューヨークタイムズの一面に、アナスイは馬鹿にするような含みで小さく笑い声を上げた。
 自分に関係がない場所で起きた凶悪事件が大好物なのは、どの世界でも同じようだ。世界を震撼させたサイコパス。今世紀最大の恐怖。異常性愛者の少女。並べ立てられる言葉はおおよそこの―――ドーナツ片手にだらしなく寝転んだ女に似つかわしくない。

「お前を見てると、ここがワイキキバカンスって感じがする」
「ンン〜?ブルーハワイ?Night and you and Blue Hawaii〜♪」
「ああ、エルヴィスか」
「ああン、プレスリー!」

 仰向けになったと思ったら、片膝を上げてプレスリーのあのポーズを決めた。食べかけのドーナツを引っ提げてウィンクを飛ばされては決まるものもキマらない。肩を竦めてドーナツを横取りしてかじりついたら、ピィチは目を瞬かせたあと悲鳴をあげた。

「あーー!!」
「残念だなあ」
「いや〜〜〜!!ドーナツドーナツドーナツ返してよォ〜〜〜!!」
「ふっ」

 見せつけるように一口で半分をぺろりと食べてしまうと、少女は大きな瞳が零れそうなほど見開いて、ショックのあまりポカンとした表情で固まっている。間抜け面を見てひとしきり笑ったあと、アナスイは後ろ手からぱっともう一つドーナツを取り出し、ピィチの口に放り込んだ。
 ターコイズの瞳が一瞬で輝く。
 砂糖のかかった生地からクリームがたっぷりと口に頬張り、ピィチは魔法でも目の当たりにしたように星を飛ばして嬉しそうにドーナツにかぶりついた。

「馬鹿なやつ」

 ピィチの買ってきたらしいドーナツの箱を後ろ手に隠しながら、アナスイはまた意地悪そうに喉を鳴らして笑ったのだった。

 




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