黒く光るボディはガラスコーティングの艶めき。アメリカかぶれだと軽蔑するような口の上には、羨望を目に携えているイタリアーノばかり。だがしかし、軽々しいタッチも許しはしない。
 確実に進化しつづけるアメリカの魂の雄叫びはイタリアの空の下で堂々と響き、Vツインエンジンはさすがの1500CCオーバー。ああ、俺の愛しい人(ハーレーダビットソン)!

「タクシー!」

 高い声が寒空に響いた。聞き覚えのあるボーイ・ソプラノと共に白く頼りない手が挙がっている。ブレーキをかけてその少年を通り過ぎたあと停止すれば、軽い足音が追ってきた。
 
「誰がタクシーだって?こんなイカしたバイク捕まえて」
「あは、ごめんってば!さすがは昭のバイク、遠くからでも一発で分かったよ」
「調子いいこと言って……」
「帰り道でしょ?一緒に乗せてってよ、俺もいまから帰るんだ」

 銀色の髪を風に遊ばせて、目を細めればきつい三白眼は途端に柔らかくなるのをフルフェイスメットから眺める。薄暗く彩られた世界で、少年の白目の鮮やかさが浮かび上がっていた。コートに突っ込んだ手は暖まらないのか、まだもぞもぞと動いている。

「ワンメーター高くつくよ、子猫ちゃん」
「出世払いで!」

 嗜めたつもりが笑ってしまった。気を良くした子猫が歯を見せて同じく笑うので、自分がかぶっていたメットを脱いで投げる。生憎とヘルメットはひとつしかないので、俺はゴーグルだけをはめてエンジンを掛け直した。警察と出くわさないことを近くの教会にいらっしゃるキリスト教に祈りながら。
 大きなボディが小さく揺れる。乗ったようだ。「しっかり掴まったか?」「うんっ」腰に回りきらない手を確認するように手袋ごしで軽く叩いた。

 走り出した速度は、いつもより緩やか。
 ロードキングはコンクリートの道を女王より勇猛に進んでいく。頬を差す冬の空気も気にならないほどに胸が高鳴るのは、なにもドリフトだけじゃない。嘶くマイ・フェア・レディ、今日も一段と激しい君。可愛い子が乗ってるから、安全運転で頼むよ。



アドリブは昼下がり



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