洗い立てのシーツに抱かれて、穏やかな呼吸をする。優しい太陽の光が体を温めて、白い海で体を横たえている。
 ゆらゆらと揺れている、揺りかごの中、産湯の中、昼のきらきらとした海の中、芝生の中、微睡んでいるだけで、本当に――――。


「………」


 意識が浮上する。
 長い間水の中で揺蕩っていて、やっと水面に上がったような気持ちになった。右手で目をこすれば、見慣れた事務所の内装が見える。
 いつも通り出勤したはいいが霊幻がおらず、ソファーに座っていたらいつの間にか眠っていたらしい。まだ開かない瞼を何度か瞬かせて、伸びをしようとして、気付いた。


「!!!」


 セーラー服に包まれた腕が、自分の左手を握っている。それが誰なのかすぐに理解して、どくどくと急激に巡る血液の音が伝わってしまうんじゃないかと恥ずかしくなった。
 どうしてアカリが自分に寄り添って、あまつさえ手を握ってなんているのかサッパリわからない。オロオロと顔を赤くしたまま周りを見渡したり、アカリを起こそうとして止めたり、一人で忙しく動き回る。
 それでも、隣ですやすやと眠る少女の瞼は動く気配がない。固く握られた手は、どこか必死そうな感じがして、敢えて解こうという気になれなかった。


(……何かあったのかな)


 そういえば、あの事件以来。
 彼女は寝ている間にまた何か燃やすんじゃないかと、酷く怖がっていたことを思いだす。夜眠ろうとしないので睡眠不足になり、学校が終わって遊んでいたらそのまま眠っていたりすることが度々あった。
 その所為か、昼間眠っているアカリを見ると何かあったのかと心配になる。


「………」


 握られた手の甲を指でなぞると、滑らかな肌の感触が伝わる。瞼を閉じている顔は、普段は強気に上がっている眉は穏やかに下がっていて、自分よりひとつ年上にも関わらず、随分幼く見える。
 女の子は不思議だ。
 腕に垂れている黒髪だって同じ色なのに、まるで違う色のように輝いている。右手でその流れをなぞったり、頬に指をつけて押したらぷにぷにと柔らかかった。むう、と唸る声。


「まいったか」
「ん〜〜……っ」


 寝ているのに不満そうな顔をするアカリが可笑しくて、小さく笑った。


 一通り遊びたおしたあと、再びソファーにぼすんと体重を預ける。もう夕焼けも姿を消し始めていて、そろそろ帰る時間だというのに体を起こす気になれなかった。
 深呼吸すると、高めの体温が血を巡ってまた眠くなってしまう。そろそろ師匠は帰ってくるだろうか。アカリは起きてしまうだろうか。たくさん思い浮かぶのに、瞼は素直に下りていく。少女の手が、幸せな夢が招いている気がした。


 あと、もう少しだけ。
 そう夕陽に言い訳をして、もう一度ゆっくりと目を閉じた。







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