昼休みの屋上。
 渡辺アカリが転校してきてから、影山茂夫のお昼ご飯を食べる相手は必然的に彼女になっていた。本来屋上は立ち入り禁止になっているが、この二人が揃ってしまえば錠前など意味をなさない。
 無残に溶かされた鍵穴を眺めながら、モブは屋上への鉄扉を開けた。給水塔の上からはスポーツソックスとスニーカーに包まれた二本足がぶらぶらと揺れている。


「むむ……」


 アカリは屋上に入ってきたモブに気づいていない様子で、難しい顔をしながら弁当箱を抱えている。梯子を登り切った黒い学ランとオカッパ頭にやっと気付いたのか、彼女は顔を上げて大きく手を振った。


「やっほー!」
「何してるの?」
「フッフッフ、よくぞ聞いた!実は今私の発火能力を応用できないかと研究中なのよ」
「応用……」


 モブはその強力さ故に人には向けず、普段は極力といっていいほど超能力を使わないが、アカリは発火能力という便利さもあって日常でたびたび利用している。とはいえ仕事では専ら霊幻のライター代わりと演出役に徹しているのだが。
 アカリが炎を出して操り、派手に暴れまわっているイメージの強いモブは、どんな恐ろしい応用を考えたんだと咄嗟にいつもアフロヘアーにされる髪を両手で庇った。


「それって人には使わないんだよね……」
「人を火炎放射器みたいに言わないでよ!聞いて驚くがいいわ……良い?私の能力は体温を急激に上げることで発火させてるの。つまり体温をじわじわと上げて発火する直前で留めれば……どこでもお弁当あっためることが可能なのよ!」
「あっ……それは羨ましい!」
「でしょ?!」


 ドヤ顔で告げられた応用技にモブは少し考えたあとハッとする。くだらないように見えて非常に便利な使い方である。出先でいつでも暖かいご飯が食べられる幸せに勝るものはない。
 得られた同意にさらに得意げに笑い、アカリは温めが完了した弁当をモブに渡し、代わりに彼の弁当箱をひょいと受け取る。ついでにやってくれるつもりということは、かなり機嫌が良くなったらしい。


「でもこれプチトマトとかポテトサラダまであったかくなっちゃうのがイヤなのよねー」
「……先によければいいんじゃない?」
「ちょっとあんた天才なんじゃないの」


 明日はそうしようとアカリが決意したところで、モブのお腹が鳴った。
 いただきます。




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