月曜日、早朝。
 爽やかに差し込む朝日とは裏腹にまだギシギシ言う体を叱咤しながら、モブは自身の消えた日曜日に思いを馳せた。全身筋肉痛に喘ぎながら全く布団から動けず、一日中トイレと食事以外、自分をいたわって過ごすことになったのである。家族も心配そうに事情を聞いて来たが、モブが「アカリが……」という所で言葉を濁すと全員が何となく腑に落ちたように頷いていた。

 ――ピンポーン。
 朝食を終えた影山家にチャイムの音が転がり込む。玄関の一番近くにいたモブが扉を開くと、そこにはやや気まずそうに目を逸らすアカリがいた。モブは土曜日に叩き込まれた部下としての姿勢を思いだし、ほぼ反射的に完璧な敬礼を決める。

「おはよ〜……」
「サーイエッサー!」
「だああ!もういいわよ!!やりすぎてゴメンってば!……ほら、土曜日靴も一緒に運ぶの忘れてたからさ。無いと困るでしょ」

 差し出された靴袋に包まれた自分の運動靴を見て、そういえば靴箱に無いことに今更ながら気付いて目を丸くする。ありがとう、とモブが素直に口にするとアカリは居心地が悪そうに自分のスニーカーを眺めた。
 靴を取り出してトントンと爪先を寄せ、足に落ち着く少しクタクタのそれを暫く眺めたあと、モブとアカリはいつも通りに登校した。

 
▲▼


 ―――ぐしゃっ
 少し肌寒くなった川沿いの砂利道に、痛々しい音が落ちる。新入部員の影山茂夫が倒れるのは本日二回目で、坊主頭で眉の薄い先輩部員は心配そうに後輩を振り返った。

「影山くん!また倒れた!?今日は自主トレだからランニングも無理してやらなくてもいいよ!」
「ぶへ……大丈夫です。転んだだけなんで」
「おお!スタミナついてきたんじゃないか?」

 意外にもけろっとした顔で起き上がったモブの背中を叩き、まだやる気がみなぎる後輩を送り出して大きく笑い声を上げる。鼻血が出てしまっているのでポケットティッシュで鼻栓をし、モブはそのままゆっくりではあるが走り出していった。
 一周早くコースを回った部長のムサシが合流して、未だ頼りなく見える背中を視線で追いかける。そしてあることにふと気が付き、モブの運動靴を指さした。

「影山のやつ、靴の底に何か書いてあるな。名前か?」
「あれ、本当だ……」

 夕暮れは少年の背中を押す。
 白いTシャツは汗を吸って重くなるが、一昨日のタイヤほどではない。何度も転びはするけれど、先週よりも長い距離を走れるような気がしていた。弾む息は頭を空っぽにして、ただもう一歩、もう一歩と進んでいく。
 少し汚れた白い靴底には、太いマジックペンで「ガンバレ!」と不格好に大きく書かれていることを、必死に走るモブはまだ知らない。それが土埃で見えなくなるころには、彼女の口から直接伝えられることだろう。






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