乾いた風が、スポーツソックスに包まれた足の間を抜ける。隣の黒い制服はまだ暖かそうだが、やはり寒いのは寒いらしく、肩を震わせてマフラーに顔を埋めていた。 ポケットに突っ込んだりはせず、背筋を伸ばしてスクールバックを手に持った指先が、かじかんで色を失っている。
「手袋、忘れたの?」 「ん……」
モブは冬になるとますます喋らなくなる。防寒具で覆ってしまうと唇を外に出すのも億劫のなるのか、それとも寒さで憂鬱になっているのか。この季節だけは、しんしんとした沈黙を破ることを躊躇ってしまう。 別に、気まずいというわけではないのだけれど。 手袋に包まれた自分の手を曲げたり開いたりしながら、少し考えたあとにちょんちょんと制服の裾を引く。
「手ぇ出して」 「?」 「いいから!」
左手の赤い毛糸を外し、鞄を持っている手にするりと嵌めた。フォークロアの模様がぴったりとフィットし、モブはぱちぱちと目を瞬かせてされるがままになっている。 それから少しだけ歩く速度を落として、背中を見ながら何も手にしていない右側の懐に入る。いつのまにか近づいた距離に、モブはぎょっと目を見開いた。
「暖かいでしょー」 「………暖かいけどさ」
もう片方の手は、繋いで彼の制服のポケットへ。ほんの少しだけ体温を上げたら絡めた指先からほんの少し熱が移ったようだった。得意げに笑いながらぐりぐりと肩を擦らせたら、恥ずかしそうに身を捩らせながら離れようとはしなかった。 それになんとなく気を良くして、事務所までの道中は他愛のない話をしながら、いつもよりくっつきながら歩いていったのだった。
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