群集が行き交う交差点で、出来るだけ人目に付かない場所を探す。定休日のカフェは誰も寄り付かず、自分がこうして持っている物にも気づかれない。 テラス席の隅っこでかくれんぼをするように息を潜める。
「喜ばない女の子はいませんよ」
なんて。 おせっかいな店員に笑顔で言われ、気付いたときにはその包みを手にしていた。羞恥にセロファンがくしゃりと音を立て、慌てて抱え直したら誰かがせせら笑った気がして縮こまる。 時計台の針は12を指した。 待ち合わせの時間になったと同時、ひょいっと日差しを遮る影。心臓が跳ねる。
「やっほ!」 「うわぁああっ」 「何よその声は………なにそれ?」
咄嗟に後ろ手に隠したそれにアカリは首を傾げた。絶対に見せまいとすればするほど、少女は躍起になるだろうことは想像に難くない。あまり激しく動かしては崩れてしまう、とぱっと先手を打つように手で制した。 予想通り奪おうと構えていた少女の目がきょとんと丸くなる。少年はわざとらしい咳払いをして、視線をあちこちに飛ばしながら声をひそめる。
「今から僕が」 「ウン」 「渡すから、笑わないでよ」 「ウンウン」
期待に輝く瞳が急かす。 約束を守ってくれるとは思えなかったが、言ってしまった手前渡さないわけにもいかない。深呼吸を一つ零し、観念して手を上げるようにそれを差し出した。
「わぁっ!」
少女の目の前に広がる、色とりどりの花束! 春をぎゅっと集めて閉じ込めたようなラウンドブーケは、黄色のラナンキュラスが日差しを照り返して鮮やかに輝いている。添えられるように小さなチューリップに、クリスマスローズ、シルバーリーフ。アカリの黒い瞳はカラフルな花々を映してさらにキラキラときらめいた。
「…………ぷっ」 「あっ!」 「あっ、あっはははははは、ごめっ、フフッあっははは!!あははははははっ!!」 「だ、から嫌だったんだっ」
あまりの恥ずかしさに顔を真っ赤になり、モブはそっぽをむいて花束を押し付けた。似合わないなんてことは自分がよく分かっていたけど、存外大事そうに受け取る指先にさらに耳が熱くなる。 アカリは花束ごとお腹を抱きかかえるように笑いながら、ラナンキュラスの柔らかな花弁に鼻先を埋めた。色と良く合う、レモンのような爽やかな香りが胸いっぱいに広がる。
どうせ何も知らないで贈ってきたのだろうなと思いながら、緩みきった顔を花束に隠して。 少女らしくばら色に染まる頬や耳たぶを、少年はまんまと見逃した。
ラナンキュラス (あなたは魅力に満ちている)
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