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ちゅうっ
「……ッおい」
「んー?」
ちゅく、ちゅぷ、
「ぁっ…ひ、ん……」
「ほんとに、淫乱ちゃんは淫乱だね。太股舐め回してるだけで可愛い声上げちゃって」
「う、煩い……っ」
精一杯強がって睨んでみても、男の笑顔は何一つ変わらず――つまり、小さな子供を宥めすかしてやっている態度のまま、俺に笑い掛けやがる訳で。
何度だって言おう。
どうしてこうなった。
……俺の所為か?
* * *
満員電車の中で若い男を引っ掛け、車内でイッちまった奴だけを駅構内のトイレもしくはラブホに連れ込むのを趣味としている、痴漢で犯罪者で変態で変態で変態であるところの男は、朋久(ともひさ)と名乗った。
俺は、運悪くそのド変態の目に留まり、あまつさえヤられ、翌々日まで獣の交尾じみたセックスが尾を引き、精根尽き果ててぐったりする日々を送らされた。
それが、今から二週間前の出来事だ。
ラブホにお持ち帰りされた俺は、コトが終わる頃には息絶え絶えだった。指を動かすのすら面倒だし、下半身のぐちゃぐちゃした感触と格闘していた。
そんな俺を無理矢理強姦しやがった犯罪者は、面倒見だけはいいのか俺の後処理もきっちり済ませた後、ホテルのエントランスでの別れ際俺に紙切れを寄越した。
ラブホ備え付けのメモ紙には、長谷部朋久というこの段階でようやく初めて聞いた名前と、メルアドとケー番とともに、『身体が疼いたらまたたくさん可愛がってあげる』との実に腹立たしいコメントが書き添えられており――
ふざけんな馬鹿野郎と俺が怒鳴り散らした時には、玄関口の向こう側に奴の背中だけが見えていた。
俺に男の味なんていうおぞましいもんを刻み付けやがった奴なんかに、誰が自発的に連絡なんぞするか。
こんなクソみたいな連絡先、速攻燃えるゴミ行きだ。決まってるだろ。
「……とは、思ってるんだぞ?」
カジュアルこたつの片隅に放り投げてある紙切れに、力なく呟いてみる。
毎日毎晩この繰り返しだ。
電話なりメールなりでコンタクトを取る予定は一切ない。でも、そのメモを捨てられない。
勿論俺にホモの気は皆無だ。会社の受付嬢のコも、事務員のあのコも、女の先輩も、俺は今でも可愛い、或いは綺麗だと思える感性はある。
しかし――
「はぁ……」
しかし、スラックスの股間部分を緩く押し上げる、俺の身体をどうしたもんか。
あー、うん、あれだな。きっと図らずも人生初体験をしちゃった直後だから、興味のベクトルがちょっと狂ってるだけだ。
童貞の肩書きとおさらばする前に脱処女の称号を得るほうが早かったのは、ちょっとした事故だ事故。
ああ、俺はノーマルだ。決して決してあの男にもっかい俺のケツマンコをガンガン突いて欲しいなど――
「……うっ」
……おい、しっかりしてくれ、俺の愚息。
なにさっきより反応しちゃってるんだ。