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頭が痛い。
望月からびっくりのタイミングで告白されて、一ヶ月。
連日のストーカー攻勢が嘘のように、あの告白の日以降、片手で足りる回数しか会っていない。
とんでもなくいきなり多忙になったとか、急に身体壊したとかでない限り、どうせぱったり姿を見せなくなった事すら、あの狡猾な男の手口だろう。「普段しょっちゅう顔を合わせているからこそ、会えない時の有り難みが分かる」とか、そんな作戦だ、多分。
そして一番腹立つのは、望月の焦らし計画の裏を読めているくせに、まんまとその狙いに嵌まってしまっている事だ。それこそあいつの思う壺だろうに。
あー……こんな事なら、告白された時きっぱり無理だって突っぱねれば良かった。妥協点を探ろうと試みてしまう流されやすい自分が情けなくなってくる。
「返事はいつでもいい」、と奴は言った。
それまで散々ぐいぐい押しておきながら大人の余裕をちらつかせて引いてみる手慣れた態度に釈然としないものを感じつつ、あの日は結局、悪戯の一つもされずに済んだ。
確かに身体的にはノーダメージだったが、精神的にはダイレクトアタックだ。
お陰で俺は、いつ断りの連絡を入れようか――去り際にちゃっかりと奴は自分の名刺を押し付けた――、そればかり考えている。幸い仕事に支障が出るほど重症ではないにしろ、悩みの種である事には違いない。
大体、好きになったってなんだよ。
俺はそりゃ、性的な意味であいつの色眼鏡に適ったのかもしれないが、だって、お互いの歳すら知らなかったのに。「好き」なんて、そんな軽々しく言えちゃうもんなのか?
望月がそれだけ告白し慣れてるのかとも思うけど、でも初恋だのなんだの呟いてたしな……。
俺なんかがその、記念すべき最初の一人目でいいのか? いやまあ多分、カラダの付き合いだけなら掃いて捨てるほど経験あるんだろうが。
分からん。あの男の何もかもが。
溜め息を吐くと同時に、眼前の光ったままのパソコンを見ない振りをして、デスクに両肘を着いて頭を抱えた。