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「あ、お帰り。狭山さん」
「……いや、あの」
「飯にする? 風呂にする? それとも俺のむす」
「ストーカーさんですか?」
「やだなー、せめて最後まで言わせてよー」

 迷宮入りだ。
 何にって、このお兄さんの対処法にだ。
 この人は住所を教えては駄目な人だったようだ。アバウトな情報だったにも拘わらず、二週間かけて俺が初対面時に口を滑らせた住所の範囲内で少しずつ張り込むスポットを変え、俺がたまたま安普請のアパートの玄関を潜る場面を発見、その三十秒後にはドアを叩き壊す勢いでドンドンやりまくる、色んな意味で危ないお人だった事が判明した。いや、全然その気がなかった俺を公園の草むらに連れ込んでゴーカンしちゃう時点でアレなんだけどさ。
 道案内をして貰えると信じ込んで住所を明かした時にはまだ、このにこにこ笑顔のお兄さん――望月の本性を知らなかったとはいえ、俺は今度の経験から、人間不信に陥りそうです。
 今日も今日とて、俺の帰宅時間に合わせて家の前で煙草を吹かしながら待ち伏せ完了させているのだから、全く手に負えない。ところで大きなお世話だけど、こんな三日に一回のペースで俺んちまで遠征に来ていて、お兄さんの仕事やらその他の私生活は大丈夫なんだろうか?
 喫煙者ではない俺を一応気遣って、年季の入った玄関ドアに寄りかかりながら煙草の火は消してくれたが、生憎俺は、そんな小さなところにも気配りしてくれて嬉しいわっ惚れちゃうっなんて性格ではない。むしろ、携帯灰皿に吸い殻を納める横顔を見ていても、なんか兎に角必死な人だなあ、としか思えない。

「さってと。狭山さんも漸く帰って来てくれたからね。俺も二時間掛けて煙草一ダースを吸い終えちゃった甲斐があったよ」
「はあ……」
「けど、一昨日よりもだいぶ遅かったね。残業かなんか?」
「いえ、外回りが長引いただけで……」
「外回り! 毎日迷いまくってない? 大丈夫?」
「その時はグーグルマップ先生に頼って……っていやいやいや、そうじゃなくて!」




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