さあ、頂戴?


「ん……」

 心地良さそうに小さく声を漏らす可愛い人の頬をそっと撫でた。滑らかな感触に生唾を呑み込む。釣られて僕も笑顔になってしまう。
 両手首を頭上のベッドポールに括り付けて、隙なくきっちりと着込んだスーツを剥いでいく。見ている側が苦しいと思う程にぎりぎりまで締められたネクタイを解く。拘束する前にジャケットは脱がせていたので、上半身はワイシャツ一枚だ。煩雑なボタンを一個一個外し、やがて真っ白い肌が姿を現した。
 太陽に晒される箇所こそ健康的に焼けている彼だけれど、それ以外の、普段服を脱がないと見えない場所はこんな風に白い。
 僕は何かを思う前に、その肌寒さにまるで勃起したみたいに主張する乳首を吸い立てていた。

ちゅっ、ちゅくっちゅく
ちゅううっ…ぷちゅっちゅく

「ん…っん、んぅ…」

 彼の顔を仰ぐと嫌々と首を左右に振りながら、同時に喘ぐ様な声を僕に聞かせてくれる。抵抗しながらも感じているみたいな動きに、一気に下半身に熱が集まる。

「翔、くん……」
「ぁ…ッ」

 喉仏に触れたら、甲高い吐息が零れた。
 もう、やめてくれ。
 僕の自制が効かなくなる。

「んッ…ンふぅ、ぁっ、あっ、んぁあ…ぁンっ」
「っ、かける、くん…ッ」

 一錠でも陰嚢に溜まったもの全てを吐き出しても欲望が収まり切らない強烈な媚薬を三粒、口移しで翔くんに呑ませる。
 無理矢理唇を奪って一分と経たないうちに、覚醒した彼がキスの余韻でか寝起きだからかでぼんやりとした眼差しで僕を見上げた。

「ぁ…ッ隼人、さん…っ?」
「んっ、ごめんね……」

 こんな強姦めいた手段でしか、君に触れられなくて。

「なに……な、にっ…した、ん…ぁ、アっ……」

 即効性の薬が早くも全身を冒しているらしく、半裸の愛しい人がかたかたと身体を揺らす。
 困惑と快楽に踊る姿は酷く蠱惑的で、「いやだ、いやだ」と譫言の様に急激に襲い掛かる本能的な悦楽から逃れようとそんな言葉を繰り返す事さえ綺麗で、媚薬を呑ませた本人に縋ってくるのが堪らなくて、

「ぁッ!」

 下着ごとスラックスを下げてしまう。
 その瞬間こそ恥ずかしさで声を上げた翔くんは、性器につうっと指を這わせると直ぐに気持ち良さそうにあんあんと鳴いた。

「凄いね……今まで触られてもいないのに、翔くんの此処、いっぱい濡れてるよ?」
「あっ、あっ、あっ! ひ、ィぁあああん!!」

 高ぶりを握り締めた手を軽く上下させただけで、足を突っ張り彼は吐精した。

「ぁっ…はぁっ、ン…」
「気持ち良い?」
「ンぁ…っもち、ひ…」

 だらしなく緩んだ口元から落ちた唾液がシーツに染みた。
 いやらしい光景を見た僕は、彼の呼吸を根こそぎ食らう様に、直ぐさま口づけを仕掛けた。



「あぁんっ、ぁんっあんっ!」
「っ…凄い、乱れっぷりだね」
「はひィっぃんっイイッ! そこぉっそこ、あ! あ! ッぁあ!」

びゅびゅっ

 萎える兆しの無いペニスを僕の手に擦り付けて、三本の指を恥ずかしい場所に咥え込み、ぎしぎしとベッドが呻くくらい腰を振りたくる。
 僕の両手は白濁と先走りでぐっしょりと濡れ、それを使って前を自慰し、必然的に後ろも抽挿する結果となる。きゅうきゅうと指を締め付けられ、僕の呼吸はとっくに荒いものへと変わっていた。

「ぁんっあっあぁあーッあ! ひィいっあんあんあん! ぁっ、しゅご…ッそこぉお!」

ぐちゅっぐちゅぐちゅぐちゅっ
ぬちゃぬちゃっ、ぐちゅっ

 蕩けきった表情でペニスもアナルも自らぐちゃぐちゃにして、引っ切り無しに射精して、その度に背中を反らせるから股間を見せ付ける様な体勢になる。
 涙や唾液や淫液で見る影もない翔くんの卑猥な鳴き声に煽られ、僕自身も下着の中で先走りを垂れ流している。その所為でべたべたして気持ち悪い。

「男にチンポ触られて、お尻の穴で指なんか頬張って……気持ち良くなっちゃってるんだ、翔くんは?」
「あっ、あっ、」
「言ってご覧? ちゃんと言えたら、」

 僕がジッパーを下ろすのに見入っている、はしたない翔くん。
 可愛い、可愛い。可愛くて、だから虐めたくなっちゃう。

ぐちゅ、ちゅぷんっ

「ぁんっ…」
「ご褒美あげるから、…ね?」

 指を抜いたアナルへ素早く片足を掲げて、僕自身を宛がう。何度か前後へ動かす仕種をしてみせると、彼は腰をくねらせ熱い息を吐き出した。
 ぽわんと口を半開きにして、物欲しそうな眼で僕を狂わせる。

「ぁっ…はやと、さん…」
「ん?」
「ぁぅっ、あっ、」

 持ち上げた右足に舌を伝わせる。それだけで堪らないとでも言いたげに、翔くんの真っ赤に膨らんだペニスは透明な涎を漏らしてシーツを汚した。
 どうしてもその言葉が聞きたくて、焦れったくて仕方ないであろう生温い刺激しか与えない。微かに先端を下の口と合わせ、ちゅくちゅくとキスしてあげる。
 ひくひくと腰を震わせて、本当は、

「…っれてぇ…ッ」
「かける、くん?」
「ぁっ…挿れて、俺のナカにっ…ぶち込んで、隼人さ…、ッァぁあああイッ!!」

 期待しつつ、本当に強請ってくれるなんて思わなかったんだ。最後まで翔くんの初めてのお強請りを聞く事なく、挿入してしまった。
 処女地でしかも男の中は酷く狭く、束の間息を整えてから眼を開くと、挿入されて再びイッてしまったらしい翔くんも同じ様に乱れた呼吸を落ち着かせていた。
 ああ、やっぱり、好きだ。
 具合を確かめるべく軽くひと突きしてみる。

「ぁふぅ…っン、ぁっ、隼人さぁん…!」

 嬌声を上げる翔くんに気を良くして、僕は右足を抱え直し、本格的に律動を始めた。

ぐちゅっ、ぐちゃっ、ぬちゅっ

「あっ、あっ、あっ」

 貫く度に耳に心地良い声が届き、嬉しくなって柄にもなく素直に笑ってしまう。

「もっと聞かせて…?」
「ンふぁ…はやと、さぁん…ッあ! ぃあっ…そこ、そこだめぇっ!」
「ココ?」

 他と比べ明らかに固くなったしこりを強く突いてみる。途端に過剰な程翔くんの身体が跳ねた。

「ひァんっ!」
「っ、…大丈夫?」
「ぁ…あ…もっとぉッ…そこもっと、もっとっ…」

 焦点の合わない視線を僕に向け、規則的に後孔を引き絞って催促する翔くん。
 その淫らな姿は性衝動と最も遠いところに在るいつもの彼からは想像も出来ない。こんなの、僕が夢想する中でしか見た事が無い。
 所内は勿論、きっと今まで翔くんに関わってきた人々の誰も知らないだろう。
 穢れのない翔くんを、僕が汚しているんだ。

「ぁく…ッ中、出していい…?」
「んっン…ほひい、ぁっ、隼人しゃんの、熱いのぉ…ッ」

 呂律の回らない唇に舌を捩込み、僕は幾度目かの絶頂を見た。







「……」
「かける、くん」

 拒絶を示す背中に呼び掛けてみても、案の定返事は無い。
 当然だ。だって僕は、一方的に彼を犯した。ただの強姦魔に愛想良くする道理は無い。
 無言であちこちに散らばる衣服を掻き集めては身に纏う彼を尻目に、僕は溜め息混じりに立ち上がる。身体を屈めてスラックスを拾おうとしていた翔くんに一歩先んじてそれを手渡すと、素早く引ったくられてしまった。

「ごめんね」
「……何故、」

 ずっと俯けていた顔を上げた翔くんと初めてまともに眼が合った。
 僕を真っ直ぐ見据える視線はやはり純粋で、射抜く様なそれに反射的に眼を逸らしたくなってしまう。

「何故、こんな真似をしたのですか? “先生”」

 他人行儀なその呼称に思わず苦笑が浮かんだ。

「好き、だったんだ」

 何年も隠し続けていた本音を口にすると、音もなく翔くんは眼を見開いた。
 その反応が面白くて、自分からその原因を作っておきながらきっと二度とこんな風に話す事が無いであろう事が寂しくて、小さく笑う。

「すき……って、」
「言葉通りの意味だよ。僕は君に恋愛感情を抱いていた。けれど、揃って男同士だし、何より君はそんな愛だの恋だの興味も無いでしょ? だから、ずっと言わずにいた」
「……」
「けど……やっぱり昨晩は酔っていたんだな。僕のベッドで君が寝ている――堪らなく興奮した。君にそういう意味で触れられたらと思ったら、止められなかった」
「……そんな、の」
「ごめん。無理矢理身体を奪われて、嫌だっただろう? 痛かったよな?」
「そんなの……」

 惑う様に一瞬瞳を彷徨わせ、翔くんが呟く。

「そんな事、最初に言って下さい」
「……え?」
「俺だって男です。身体を繋げる事に全く無関心というわけではない」
「え、……え?」
「ですが、いち人間としての尊厳もあります。ですので、」

 言いながら彼は立ち上がり、僕の正面に立った。
 微かに微笑む僕の好きな翔くんがそこに居る。

「次また催した際は、きちんと俺の同意を得てからにして下さい。隼人さん」
「……ま」
「『ま』?」
「負けた……」
「? 何がですか?」

 そしてやっぱり純粋に、首を傾げるんだ。
 僕も同じ様に笑い、そっと翔くんへ手を伸ばした。最初は一晩の恐怖からびくりと身体を竦ませたけれど、それも直ぐに弛緩させてくれる。
 痛くない様に壊さない様に優しく包んで引き寄せると、彼はまるで安心したみたいに細く息を吐き僕の肩に頭を乗せた。

「可愛いな、翔くんは」
「俺の何処が可愛いんですか」
「ん? そうだなー、こうやって甘えてくれるところ。仕事に疲れたらいつも僕に擦り寄って来るだろう? 僕はその度に理性と戦っていたんだから」
「……そう、ですか」

 恥ずかしそうに少し耳を赤くした翔くんも、きっと僕しか知らないんだろう。



Fin.



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