おままごと


「あっ……あぁ……ッ」

 はしたない声が漏れ、俺は咄嗟に唇を噛み締めた。
 俺の首元から顔を上げた隼人さんが、楽しそうに細めた目で俺を見遣る。

「首舐められてるだけで、気持ちいい?」
「……っ、は、い……」
「そっか」

 ――素直ないい子。
 そう囁いた隼人さんは再び、俺の素肌を舐め回し始めるのだ。
 お互い全裸になって、熱いシャワーを浴びたきり、身体や髪を洗うのもそっちのけにして。
 こうして抱き合っている様は、淫蕩と呼ぶに相応しいものなのだろう。
 
くちゅっ…… くちゅ

 隼人さんの舌が俺の肌の上を這う度、密かな水音が立つ。
 それにすら容易く興奮してしまう俺は、勃ち上がりつつあるモノを対面の隼人さんの脚に擦り付けるように――触ってとねだるように――して、腰をくねらせてしまう。
 隼人さんは、とっくに俺の心を見通していて。

「ッ、ぁ……はや、はやと、さ……」

 焦れた俺が名前を呼んでも、素知らぬ顔でふふっと口許で笑むだけ。
 隼人さんの背中に両腕を回して、抱き着くように肌を密着させる。
 こんな風に誰かと、隼人さんと触れ合っていることは気持ちいいことなんだと、隼人さんに教えて貰った。

「もっと……もっと、ください……」

 すっかり濡れた声で恥ずかしいおねだりをすれば、上手に出来ましたと言いたげに、隼人さんがにこりと微笑んだ。

ぐちゅっ ぐちゅぐちゅっ
ちゅっ……ぐちゅぐちゅぐちゅっ!

「あッぁんっ! そん、ぁ、ぁあっ……ぁ、アッ!」

 すかさず俺のペニスを握り込まれ、容赦のない速度で手淫されると、もう俺は喘ぎ声しか紡げない。
 浴室の壁に凭れつつ背中を反らし、びくびく震えながらの嬌声は、浴室いっぱいに反響してしまって凄く恥ずかしい。
 なのに、脚をいっぱい広げて、腰をいっぱい振って、隼人さんがもっともっと俺をいじめてくれるように促す。
 上半身の半ばほどはずれ落ちて、背中の上半分だけで壁に寄りかかり、そこから下は隼人さんの殆ど投げ出しているこの格好。勃起した隼人さんのモノが脚に当たって、それだけでぞくぞくした。
 俺の左足を掴んで更に広げさせながら、隼人さんの手マンは加速していく。

「んあぁ……ッあ、も、あ……ッ」

 隼人さんのせいで淫乱にさせられた俺が上り詰めるまではあっという間。

「あ……ッああぁ……っ!」

びゅっ……ぴゅぴゅっ

 ぐっと背を仰け反らせつつ、隼人さんの手の中にたくさん精を放つ。

「あ……あ、あぁ……」

 ろくな言葉も紡げないほど疲れてしまうものの、射精直後特有の倦怠感は、嫌いではないのだ。

「今日もまたたくさん出たね、翔くん」

 何故ってそれは、隼人さんに可愛がって貰った証拠だから。

「……は、い……今日も、たくさん……」

 鸚鵡返しに、そして譫言のように復唱した俺を、愛おしげに隼人さんが見つめる。
 優しい隼人さんのこの眼差しが好きだ。大好きだ。

「隼人さん……キス、して、ください……」

 俺はまだ、恋を知らない。俺にはまだよく判らない。
 そんな俺が、俺を好きな隼人さんにキスして欲しいなんて催促するのは、きっと凄く狡いことだ。
 頭ではそう考えていても、気付けば口にしていた、俺のその我が儘。

「いいよ。『今日もたくさん』――ね?」

 そして隼人さんは、嫌な顔ひとつせず、むしろそれすら何処か楽しげに、唇を合わせてくれる。



Fin.



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