甘い蜜


「……うう。俺、やっぱり馬鹿だ……」

 夜十時。
 鏡に映る自分の姿を見た途端、視線が下へ落ちた。こんな格好見ているのも辛い。
 そうだ。そもそもあいつが悪い。
 翔が、「『恋人に着せる為のコスプレ衣装を隠している』とにやにや笑顔で言っていました」と報告してくれるから。まあ、前触れなくそんなもんを披露された時の精神的ダメージは軽減したけど。
 それで、聞かなかった振りが出来ずに、あまつさえ最近疲れている晴を喜ばせたくて、いそいそとあいつの部屋のクローゼットからコレを引っ張り出す自分に、本当辟易する。
 ぎりぎり下着が隠れる紺色のミニスカと、胸元で広がる赤いリボン。半袖の真新しいブラウスに、灰色のソックス。

「あの変態、今時女子高生とか……」

 いっそあいつの事だから、女王様スタイルとかナース服とかを選びそうだったが。こんなの定番過ぎる。
 ……待て、それじゃあ俺がもっと突飛なコスプレしたかったみたいだ。
 中が見えない様にスカートの裾を引き下ろす。一応男物のパンツは履いているけど、スースーして心許ない。女装が趣味の人って凄いな。
 恥ずかしそうに忙しなく眼を泳がせる姿なんか、別に可愛くもなんともない。寧ろ挙動不審さが相俟って気持ち悪いくらいだ。

「……止めるか」

 ただ痛いだけだろ、こんなのって。晴が喜んでくれるかも判らないし。
 大きな溜め息を吐き、苦労して形良く結んだリボンに手を掛ける。

「勿体ねェな」
「――……は?」

 鏡越しに背後を見遣る。
 腕組みした晴が寝室の入り口に立っていた。

「……ばッ、おま、なん、ちょ……ッ!」
「流石指揮官サマ。文系のお前には他人の気配を読むなんつー真似は無理か」
「い……いつッ、から……!」
「スカート丈を誤魔化そうとお前が真っ赤な顔して四苦八苦してた辺り」
「さっさと言えよこの馬鹿ッ!」

 最悪だ。ベタなオチが着いたのが特に。
 頬が熱い。晴がこっちへ歩いてくる足音を聞きながらも、恥ずかしくて恥ずかしくて顔を上げられない。

「――伊織」
「……っ」

 狡い。掠れた声で俺の名前呼びやがって。ぴく、と肩が揺れた。
 ぎゅっと眼を固く暝ったのと、顎を持ち上げられたのとは同時だった。

「晴……っ」
「凄え可愛い。今すぐ襲いたいくらい」
「う……そ、つけ……っ。何処が可愛いんだよ、ただ俺が調子に乗っただけで……!」
「嘘じゃねえって」

 鏡を背に腕の中に閉じ込められ、ほら、と晴は俺の太股に股間を押し付けた。
 爆発しそうな熱が準備待ちしていて、思わず晴を見返す。

「は……っはる、」
「な? お前が可愛いから勃っちまった。嘘じゃねえだろ?」
「かっ……格好良い事言う前に、下半身どうにかしろ! お前本ッ当に欲望に忠実だな!」
「はは。褒めんなよ」
「褒めてないっつの!」

 ああ、どうしようもなく、嬉しい。
 晴は俺に、ちゃんと欲情してくれるんだ。
 恐る恐る恋人の背中へ両腕を回すと、意外そうに晴が眼を瞬かせた。

「きょ、今日だけだからな……っ」
「……りょーかい」

 呟き、一頻り笑ってから、晴は俺のスカートの中に躊躇いなく右手を突っ込んだ。

「ちょっ!?」
「なんだよ、やっぱりパンツ履いてんのか。脱げよこんな色気無ェもん」
「ふざ……っ丸見えになるだろ!」
「別に良いじゃん。手間省けて俺は有り難いね」
「は……っば、かァ……ッ」

 下着の上からチンコを掴まれて、泣きたくもないのに興奮して眦に涙が浮かぶ。咄嗟に爪を立てると、晴は慰める様に額にキスをくれた。
 ゆっくりと握り込んだ手を上下に動かされ、「あっ、あっ」と声が上がる。淫乱な身体はその温い刺激に飽き足らず、ゆらゆらと腰を振る始末だ。
 濡れそぼつ下着が気持ち悪い。けど、チンコは先走りを漏らし続ける。

ぐちゅっ…くちゅっくち、

「ぁああッ…ンふ、ぁン…っ」
「相変わらず敏感な事で。ガマン汁凄えな、ずっと出っぱなしだぜ?」
「ァふぅッ、ん! あっ、あっ、晴…っし、ろもぉ…ンぁ、後ろも…ッ」

 堪え性の無いはしたない我が身がおねだりをし始めるのは、酷く呆気ない。
 左手は背中を、右手は晴のシャツを握り、がくがく震える膝で何とか恋人にしがみつく。俺より拳一つ分背の高い晴を見上げた弾みで、フローリングに唾液が落ちた。
 くすくす笑う晴に促され、全身鏡のすぐ隣の壁に両手を着く。背中から覆い被さる晴はぐちょぐちょのトランクスを丁寧に脱がせ、先走りを纏う指をゆっくり下の口に食べさせてくれた。

「ふぅうううんッ…」

 喉がのけ反る。
 気持ち良い。気持ち良い。立ちバックなんて久し振りだけど、晴とのセックスはどんな体位でもヨくなれる。
 焦れったい程の緩慢な動きでナカをまさぐる右手とは逆に、左手は性急に俺のブラウスのボタンを外す。リボンを取っ払ったほうが早いのに、それは首に巻いたまま、素肌だけを晒す。
 吐息で晴が笑んだのが判った。身体の正面に顔を覗かせる事なく、真っ直ぐ晴の指が俺の赤く熟れ切った乳首を摘む。

「くぅん…ッ!」

 はしたない鳴き声を上げた俺の首筋に舌を這わせ、あちこちから快感をくれる。
 しこった果実を指の腹で捏ね、わざと前立腺を避けて内襞を解し、火照った肌をそれより熱く感じる晴の舌が滑る。

くちゅっ…ぐち、ぐちゅ
ぺちゃっちゅくっくぷ

「あ、あ、ぁあ…ッ! はうっ…はぅう、あっ、イイよぉっ…ァん! ンふぅうう…あっ、あっ、」
「俺の名前も呼べないくらい感じるのか、淫乱な伊織は?」
「ンぁああああっ…! はっ、かん、感じ…あー…ッ!」

 言葉責めさえ堪らなくて、鈴口からどぷっと淫液が溢れた。
 それからもねちっこいくらいの愛撫を受け、俺はたくさん鳴いた。
 晴のだと思うと、勝手に後孔が締まる。これから大きなモノを受け入れる為の準備だと思うと、熱い吐息が漏れる。
 愛されてるって、凄く心地良い。

「ァああッ…」

 三本の指が出ていき押し当てられるのがでかい灼熱に代わった時、期待に満ちた甘ったるい嬌声を上げた。
 びくびくって跳ねる晴のチンコ。早く。早く一緒になりたい。

「欲しいか?」

 口を開くといやらしい声が出そうで、俺は何度も頷いた。
 晴は俺の腰を掴み、指を二本アナルに突っ込み入り口を開いた。

「ンっ、ぁふう…ッぁああん!!」

 緩んだところに欲望を捩込まれ、太股が激しく痙攣する。
 ナカを圧迫するチンコが最奥に到達したと気付いた頃、漸く自分がトコロテンをしたのだと知った。
 お漏らししたみたいにフローリングを点々と汚す白い汁。此処、晴の部屋なのに。

「ぁっ、ごめ…」
「ん? なんで謝る?」
「だって…っあの、俺、イッちゃって…」

 壁紙に爪を立てながら背後を振り返り、恐る恐る言った。
 自白するまで気付かなかったのか、晴は俺の足元に眼を遣り、それを確認すると口角を持ち上げた。

「ほんとだ。お前、いつになったら我慢を覚えるんだ?」
「き、気持ち良いんだから仕方ないだろ…っ」
「開き直るなよ。お仕置きされたいのか?」

 お仕置き。
 恐怖でも不安でもなく、俺は期待して、アナルを締め付ける。
 愉快そうに晴が笑った。

「流石マゾ。既にソノ気か」
「やっ…やっぱり、嫌…ッおわ!?」

 煽られたのは間違いないけど、ド変態の企む事なんて碌な事じゃない。下の口の前言撤回しようとした矢先羽交い締めにされ、縋っていた壁からも離された。
 バランスを崩してその場に倒れ込みそうになったものの、晴は存外すぐに止まった。

「ひ、…ゃ…ッ」
「嫌じゃないよな? ずっぽり俺のブツ咥えといて」

 蕩けた顔して衣装をやらしい液で汚す、半裸の女子高生。と、にやにや笑いながらスカートを捲る変態。
 晴の言う通り、アナルは美味そうに晴のをしゃぶっている。視認した途端、きゅうっと後ろが締まり、ペニスをもっとくれと言わんばかりに内襞が奥へ誘った。
 耳まで熱くなって慌ててスカートを掴む手を払おうとしたが、晴はあろう事かそれに先んじて俺の両手を取り、自らスカートを捲っている様な格好をさせる。

「ぁ、あっ…」
「コーフンしてんだろ? 自分で自分の恥態見る事なんか無いからな」
「ふ…ッち、が…っ」
「嘘も大概にしとけ。動かせないくらいアナルを締め付けて、それでも興奮してないって?」

 俺が自発的に、晴に恥ずかしいところを見せ付けているみたいだ。
 あ、あ、と短く声を上げ、視線が鏡から外せなくなる。
 晴は息を吐き、右腕を俺の腰に回した。

「…いくぞ、伊織」
「ぅァんッ!」

 がつんと音がしそうな程、晴ががむしゃらにナカを貫いてくれる。一番深いまで頬張ったチンコはよく知った味で、いつもより美味しく感じた。
 俺はスカートから手を離す事なく、出たり入ったりする恋人のチンコとか、だらだらガマン汁を零す息子とか、パンパンって腰骨が尻とぶつかる音とかに夢中になってた。

ぐちゅっぐちゅぐちゅぐちゅ!
ぐぷっ…ズル、ズパンッ

「ァはぁっン! あんっ…あん、ンぁあ! 奥…っイイ! あっあっあっ!」

 二度目の絶頂はすぐに訪れ、放埒した直後には鏡の中の俺はわんわん泣きながら腰を振りたくっていた。
 チンコが揺れる度に先走りがスカートの内側やらに飛ぶ。そことチンコがたまに擦れ、死ぬ程イイ。


「くッ…伊織、伊織っ…!」
「ンぁああーッ! はっ…はう、はるぅうう…ッ」
「ン…お前と、今ヤってんのはっ…俺だからな。ちゃんと覚えとけよ」
「ふぁああン…っわす、忘れるわけ…ア! ない…っだろ! 俺がァああん…晴っ以外の、奴とヤるくらい…お人よしに見える、のかよっ?」
「……は。確かに」

 一番回数の多い正常位じゃ遠くて聞こえない晴の喘ぎ声も、今日は全部俺のもの。
 乱暴な仕種で後頭部を鷲掴みにした晴と舌を絡ませながら、何回目かの射精をした。



Fin.



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