伝えさせてください


「……はぁ」

 あ、まただ。
 あいつは無自覚なのかね。疲れ切った少し青白い顔で溜め息を吐き続けてるくせに、ああやって仕事を引けようともしない。休みなく総司令部内を行き来して、部下とか同僚とかと忙しなく会話してやがる。
 見てるこっちが不安になる。あいつの場合、ぶっ倒れるまで自分の不調にも気付かない、超が三つくらい付くレベルの馬鹿だから。

「藍原指揮官」

 部屋の入り口付近で直立して声を掛けてやると、生気に欠けた濁った眼差しを向けた。凄え不機嫌そうに睨んでくる仕事中の表情は威圧感があり、正直ちょっと怖い。

「なんだ」
「いえ、もう午前の一時半を回りました。深見長官とお約束された時間では?」
「約束……?」

 伊織が一瞬素の声を上げた。

「はい。そう伝え聞いております。残業は他の方へ任せて、そろそろ総司令部を辞されては如何でしょう?」
「ああ……ああ。そうする」

 鬼上司とまで噂される藍原指揮官は、その実とても聞き分けが良い。
 ……まあ、『約束』なんざでっちあげだけどさ。







「おい。お前、今日は休みを取れ」
「え……は? 何言って――」

 道中で倒れかねない伊織を気遣って自室の前まで付き添ってやったのに、この馬鹿はきょとんと首を傾げた。
 周囲に人の気配が無いのは把握済みだ。だからこそ、俺と伊織の関係がただの上司と部下である偽装をする必要は無い。
 第三者の眼があるところでは絶対に口にしない、『藍原指揮官へのタメ口』になった俺に対し、伊織も無意識なのか感情を排した仕事モードの声音ではなくなっていた。

「お前、朝の六時から今まで、ずっと働きっぱなしだろ? 少しは他の奴も頼ってやれよ」
「あ……けど、俺が自分で動くほうが楽で……」

 もごもごと言い訳を垂れる馬鹿にデコピン。
 痛っ、と小さく叫び、両手で額を押さえて涙の滲んだ視線を寄越す。

「肩の力抜けよ。ま、お前が何やらせても万能人間なのも、クソ真面目な性格なのも知ってっけどさ」
「ッ……余計な、お世話――」
「俺は」こんな時くらい自分の気持ちをはぐらかしたくなく、真っ直ぐ伊織を見据えて言う。「俺は、お前が心配だから言ってんの」

 ゆっくりと恋人は眼を見開いた。

「お前が俺の目の前でとか、俺の知らないとこでとか、倒れやしないかって結構本気で不安なわけ。判る?」
「わ、か……る……」
「よし」

 にっこり笑って頭を撫でてやると、恥ずかしそうに奴は俯いた。あーくそ、今すぐ襲いてえ。
 赤くなった耳に触れながら、なんでもないのを装いさらっと付け足した。

「んで、俺は今日休みなんだよね」
「……え!」
「ついでに言えば、特に予定は無えし、行きたい場所も無えし。今日一日お前が俺を独占出来ちゃう状況にある」

 がばっと顔を上げていた伊織は、にやける口元を隠す様に無理に引き結んだみたいな唇を動かし、凄まじく小声で言った。

「……独占、する」

 これもう、俺としては寧ろ、今日一日中何処にも出掛けずにこいつを抱き殺したいんだけど。駄目?







 伊織がずっと観たかったらしい映画のDVDを朝イチで借りてきて俺の部屋で鑑賞して、その途中でムラムラして一回こいつを食って、後始末を消化したり疲れて寝ちまった伊織の寝顔を堪能してたら夕方になって、昼飯兼夕飯を外食で済ませショッピングセンターに出掛けたのは、日も暮れてからだった。
 お互いラフな格好で服屋を覗いたり、伊織の為にケーキ屋に立ち寄ったりして駐車場に向かい際、伊織が嘆息混じりにぼそっと呟いた。

「なんか……俺、物凄い今日を無駄にしてる気がする……」
「無駄ァ?」

 勿論額面通りの意味ではないって判りながらも、その言い草に腹が立って邪険な相槌を打っちまう。
 案の定伊織は慌てて両手を振った。

「違っ……そういうんじゃなくて! いつもならまだ仕事中だから、こんな風に何て事ない日常が嬉しいっていうか、あの、仕事してたら人の役に立ててるって実感があるけど買い物じゃそれがないし、ほんとに純粋に平和だし、」
「なんだよ。俺と出掛けずに、仕事してたほうが有益だったってか?」
「違ッ! そう……じゃなくてっ……!」

 駄目だ。こいつの言いたい事は何となく判るけど、今日俺と一緒に居た時間丸ごと否定されたみてえで、苛々が収まらない。
 違う、ごめん、と俺の後ろをくっ付いて来ながらしどろもどろに小声で謝る伊織を肩越しに振り返って、何かがプチンと音を立てた。
 車のキーを尻ポケットから引き抜き、鍵を開ける。泣きそうな顔してる伊織の腕を掴んで後部席に放り込んだ。

「晴……ッ!?」

 駐車したのは比較的隅のほうだ。けど、隣のスペースにも駐車されてるからいつ所有者が戻って来てもおかしくないし、窓全てに覗き見防止の黒いシールを張り付けてはいるものの近付けば何の効果も無い。おまけに、此処は地下駐車場だから音もそこそこ響く。
 俺も伊織に続いて後部席に乗り込み、乗車した反対のドアから逃げようとする兎ちゃんを後ろから抱き寄せる。

「ぁッ……」
「失言の責任は取って貰わないとな?」
「晴……ッ」

 俺を見上げる伊織の涙目にヤバイくらい興奮して、噛み付く様にキスをした。



「ンふっ……あ、ぁん…ん! ぃや…ッ晴、こんな場所…!」
「その割にはお前の乳首、真っ赤だけど。やらしー」
「ンぁっ! ぁああっ…抓っちゃ、あ!」

 運転席の頭を置くところに縛った両手首を固定し、俺は全裸にさせた伊織の背後から摘めるくらい成長した実をこねる。その度可愛らしく鳴き、身を捩らせてる。
 如何せん至るにはクソ狭い為、密着し過ぎて俺のブツが伊織の尻に当たってるわけだが。果たして気付いてないのか、気付いてるけどそれをもソノ気になる材料なのか。
 尖ったおっぱいしゃぶってやりてーなーとか思いながら、俺はだらだらガマン汁を漏らすチンコを握ってやった。

「ィあんっ!」
「流石淫乱。青姦でもイケるのか。今後マッパの上からコート羽織って、一緒に散歩すっか?」
「ぁ…あぁっ…!」

 びくびく、とチンコが跳ねる。

「あー、お望みならローターとゴムもセットな。イッちまって白いお漏らし見られたら困るだろ?」

 どろ、と溢れた先走りが俺の手を濡らす。
 ついでにシートと足元も汚してっけど、まあ、大目に見てやろう。
 極めつけに俺は伊織の耳元に唇を寄せ、意図的に掠れさせた声で囁いた。

「出すもん無くなるまでイキまくって……凄え気持ち良いんだろ?……なあ、インラン」
「ひ、――ッ!」

 精々チンポを握ってたくらいの刺激で、伊織は声もなく背中をのけ反らせ、俺の声と淫らな想像をオカズにイッた。
 残滓もきっちり扱いて吐き出させて、白い蜜を纏う右手を舐める。美味くないけど、甘い。

「休んでるのが嫌なんだよな? ほら、もっと鳴け」
「ぁ、ィぁあッ!」

 唾液で光る人差し指を後孔に突っ込む。日中ヤった名残か、もしくは盛ってる所為で緩んだのか、あっさり伊織は根本まで咥え込んだ。
 きゅ、と直ぐ様吸い付いてくる絶妙の締まり具合に余裕が無くなってきて、間髪入れず中指も挿入した。

ぐちゅっじゅるぐちゃっ

「ぁああああ…っ!」
「美味いか?」

 緩慢な動作で二本の指を前後に揺すってやると、セックスの動きを連想したのか、律動に合わせて腰を上下に振る。
 あ、あ、と気持ち良さそうに嬌声を上げ、口の端から涎を零す伊織。思わず舌なめずりをした。
 再び唇を耳元へ持っていき、

「もっとデカイもん、挿れて欲しいか……?」
「ア……っ!」

びくっ

 途端に、キュウッとアナルが締まった。
 今すぐ食らい付いてやりてえくらい、エロい身体。

「ッぁ、あ…っ晴、」

 伊織は初めて後ろを振り向いた。
 涙でぐちゃぐちゃの顔を切なげに歪め、艶やかに光る赤い唇を動かす。

「キて、よぉ…ッ」
「……ッ」
「キて…ゃく、キてぇ…! あっ、俺…ごめ、…ンぁふ、ぅ…嬉し、かっ…ほんとは、デートぉ…っ仕事ばっかで、毎日つまんなくて…息、ぁっ、詰まってぅから…ハァッ凄く、嬉し…ッ――!!」
「はっ…くそッ」

 ぶち込んだ瞬間、また伊織はイッた様だ。全身をこれでもかと反らせ、虚ろな眼が俺を見詰める。
 こっちも突っ込んだだけで出しそうになる。伊織以外の奴となんか繋がる気も起きない程、こいつのナカはイイ。
 入り口は狭いのにナカはとろとろで、挿入すると上の口より饒舌に俺を締め付ける。熱く熟れた内襞はより俺と触れたがり、ちゅうちゅう吸い付いてきやがる。
 下唇をきつく噛み、手首を縛るネクタイを解く。伊織は力の入ってなさそうな腕を伸ばし、背面座位の体勢から無理矢理俺の首に縋ろうとした。

「ッこら、この体位じゃ出来ねえだろ」
「ん…やだっ、向き合ってシたい…」

 ぶっトんでる時の伊織は、娼婦みてえに積極的になる。そんでそういう時は決まって、情けない事に俺はセーブ出来なくなっちまう。

「く…ッ」

 限界まで息子を抜き、ズチュン!という音を立てて奥まで頬張らせてやる。
 咄嗟に伊織は左手を俺の首に回し、もう片方はジャケットを掴んだ。固く閉じた瞼にキスすると、びっくりした様に顔を上げ、にこっと笑う。
 ……いよいよ、白旗を上げる時が来たみたいだ。

「ぁんッ! っは…あっ、はるぅっは、ぁるッ!」
「今日は…っ手加減してやんねえから」

パンパンパンパン

 肌がぶつかる音。陰嚢が尻を叩いて、陰毛はさっきから伊織の後孔の入り口を擽ってる。
 蕩けた顔で俺の名前を引っ切り無しに呼ぶ伊織の咥内に舌を忍ばせた。

「ンふ…ぁっ、はぁ…ッあ!…晴ぅっ…ン、晴、好きぃ…」
「俺も…自分でも気持ち悪ィくらい、伊織が好きだ」
「ん…嬉し、よぉ…」

 べちゃべちゃとお互い必死に舌を絡め、唾液を啜る。二人揃って口元が涎でべたべたしてっけど、ちっとも気にならねえ。

「は…ッ」
「晴っ…晴、俺…あっ! 奥ぅうっ…おっき、あっ、晴のぉッ…! 凄っ…ズコズコ凄ぃいいッ…! ンぁあ…あっあっ、ィあ! ぁっ駄目、あっ、あっ、あっ!」

 これまた仲良く、どっちも同時にイキそうな頃合いだ。
 伊織が切羽詰まって「あ」ばっか連呼したら、「もう出ちゃう」と同義語になる。
 伊織の背中を掴んでた手を後頭部へ移動させ、

ズンッ!

「ふぁああああぁああッ!!」
「ぁ、く――…っ」

 ほんとに俺達、なんつうか、いかにも恋人って感じだな。







 いつの間にか気絶する様に眠りに落ちた伊織の横顔を盗み見る。
 俺はそっと、共通のお気に入りである邦楽バンドに音を控えて貰うべく、運転しながらプレイヤーの音量ボタンを弄った。

「……好き、ねえ」

 俺、あの一言だけで、明日からの一週間徹夜の任務頑張れそう。



Fin.



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