TryAgain. | ナノ

TryAgain.

 誰かに言われるまでもなく、生きてやりたいことなんて幾らでもあった。それでも一番最初で最期やるべきことは、そんな願望が霞んでしまう位に重く自分にのし掛かってどうしようもなかった。
 悲しくても笑えるように、苦しくてもなんでもないって振りが出来るようになっていた。身動きができないまま、其れが唯一自分に残された希望であり、救いだった。

 そうやって恐怖を押し込めて消えるとき初めて見知らぬ気持ちに気がついた。最後にあの太陽みたいな笑顔を思い出していたから

 結局は、好きです。とも、愛しています。とも言えなかった。

 自分には彼に対して負うべき罪があり、逃れることのできぬ責務があったから
 でもそれは言い訳に過ぎない事も知っていた。本当は恐かったからだ。あの人に拒絶される事が、最期なのだからとも思ったけれど、あの人はきっと罪深い俺にも微笑みかけてくれただろう。でも、それではいけない。だって互いの思いが確かに交じり合ってなければそれはきっと俺の求めるものではないから

 宮殿のテラスでぼーっと水の音を聞いていた。髪を緩く揺らす風が心地好くて瞼を閉じる。遠くから聞こえてくる人々の生活の音に耳を澄ませた。街も国も、何もかもが違うのにこの世界に生きる人々は変わらない。

 気がつくと隣には優しい風に太陽の髪を揺らすこの国の皇帝がいた。音も気配もさせず隣に立つ彼に何時の間にと驚いた。こちらに向かって微笑みゆっくりと口を開いた彼は「旅が終わったら次は何がしたいんだ」と聞いた。
 そんな事を聞かれたのは初めてだから驚いたし、どうしたらいいんだろうって酷く戸惑ったのを覚えている。
 不思議といつも彼に対して感じていた苦手意識はこの時何故か感じなかった。そうして次なんてあるのかな、なんてどこか感傷的に思いながら俺は微笑んだ。

 少し考えてそれから「奪ってしまったモノへの償いを」と言ったら何故か彼は痛そうな顔をした。どこか怪我をしたのかと聞いたらまた同じ顔をされて頭を撫でられた。頭にずっしりと感じる重さと暖かさ、見上げると意外と使いこまれたその手にインクの染みついた後を見つけて、奇妙な感情を覚えた。

 今度は凄く静かな声色で「自分が自分の為だけにしたいことは」と聞かれたから、答えが見つからずに口をつぐんだ。自分の為に何がしたい、何ができるだろう。ぐるぐると考えてみたけれど言葉は浮かばなくて、黙り込んでしまった。
 けれど彼は答えが見つかるまでそばに居てくれて、いつまでも答えが出るのを待っていると告げるその瞳を見つめていたら「自分だけの何かを探しに生きたいと」つぶやいていた。小さく呟いたその言葉、無意識ながらも言いずらかったのは、罪悪感を感じていたからなのか、それとも羞恥からだったのか、今でもはっきりとはわからない。

 不器用にも撫でてくれる節くれ立った大きな手が好きになった。優しく問い掛けてくれる耳に心地よい低い声が好きになった。

 本当は「何がしたいの」と聞かれることを恐れていた。したいことなんて幾らでもあったはずなのに、途端に見失ってしまう。とても些細なこと過ぎて、何かを擲ってまでやりたいことだと断言出来ないから。それは自分には中身が無いと言っているようで悲しかったから

 こんな自分に何が出来るか分からない、何がしたいかさえも分からない。やるべきことが目の前にあることはある意味で救いのようにも思えた。


 だから消えてしまうその時に思った。

 「生きたい」そして彼に「伝えたい」

 もし、こんな自分にも"もう一度"があるなら


 愛していると何度でも叫ぶから、好きと一度だけ囁いて


2012/04/06
携帯のメモにあった短文から。メモとか短文を乗せるにはちょうどいいことに気がついてネタフォルダとか引っ繰り返してます。シリアスが多いのはご愛嬌(?)

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