───ナマエ。お前がそう選択するのなら、俺も容赦はしない。
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逃 が さ な い。

それはまるで狂気じみた執着だった。ただ、オレも友───と言っても、今更“友”と呼べる相手ではない。反吐が出そうだ───奴と同等の執念を持っている自覚はあったんだ。ただ、手酷く抱きたいだなどという下劣なことは考えなかった。幸せな顔を見たかった。喜ばせたいとすら思っていた。
ゾーンを浄化していく内に、ナマエと顔を合わせる機会はまったくもって失われていった。気に喰わないからだろう。奴はオレとナマエが関わりあうのを避けたかったんだ。仲良くなることで弊害が生じると考えたから。まあ最後の審判に至るまではオレはナマエに何もしてやれなかったわけだけど。
バッターはいよいよナマエを手篭めにしたわけだが、実を言うとエンディングはこれのひとつに限ったわけではなかった。分岐ルートがあるんだよ。わかる?マルチエンディングってやつ。
秩序の崩壊、世の理が覆ったこの世界では、もはや“常識”など通用しない。つまるところオレもNPCから卒業できたってわけ。念願の自由を手にしたってのに、感極まれることなく息を潜めているあたり、先ほどの行為を見せられて傷心していることが手に取るようにわかる。……実は結構傷ついてんだよなあ。ナマエのことは嫌いじゃない。寧ろ好き、であるがために、傷つかないわけがなかった。
まるで強姦だった。あいつは怯え震えていたナマエを力でねじ伏せ、我が物とした。吐き気が催しそうだった。オレだったらもっと大事に扱うのに、なあ、なんて。
元より細い糸で繋がっていたナマエの世界との境界線は、もはや崩落してしまっている。彼女は世界に見捨てられた哀れな人間だった。つけ込む隙があるならそこだ。もっとも、オレにとっては“つけ込む”必要はないわけであるが。他人との距離の縮め方については少しばかり秀でている自負があるもんでね。

「なあ、ナマエ?つらいよなあ、痛いよなあ。元の世界に帰れなくなっちゃったんだもんな。でも大丈夫さ、オレがいる。ずっと一緒にいてやるよ。……バッター?ハハ、奴の名前なんて口にするなよ。不愉快だろ?気持ち悪いだろ?一般常識の通用しないこの世界じゃあ、オレはバッターと対等に、あるいはそれを上回る手腕で戦えるんだぜ?……わかる?オレ、こう見えて結構強いのよ?……だからさ、もしナマエが望むなら、あいつのところから逃げちゃおうぜ。手を貸すよ。失敗しない計画だってある!……なあ、頼むからさ、オレの手を取ってみない?」

膝を抱えているナマエにそっと近づき、しゃがみこんでから顔色を伺う。悲惨な顔をしていた。血の気のなくした真っ白な顔を。目には涙が浮かんでいる。さっきまで犯されていたんだ、無理もない。ナマエの膣内には生々しく奴の汚らしい精液が入っているのだろう。

「ざ、ざっかり、さん、わ、わたし、どうしたらいいですか」

がたがたと身体を震わせながらしゃくりあげたナマエは絶望していた。元の世界へ帰ることは叶わない。浄化の遺したものはまっさらな虚無。気が遠くなりそうだった。
しかしながらオレにとって、ナマエが元の世界へ戻れないのは好都合だった。なにも亡い世界ではどうにも話し相手が欲しいもんだからな。……まあ、それ以上のことを望むのも実は少しだけあるんだけど。好意を抱いてるんだ、当たり前のことだろ?
膝を抱えて泣き続けるナマエを見て、やはり彼女はバッターから引きはがさなければと感じる。ザッカリーは静かに、バッターのどす黒い欲望に浸食されつつあるナマエの小さな白い手を、そっと握りしめた。

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