世界に蔓延る悪を淘汰する。それが俺の役目だった。各ゾーンに存在する亡霊を、そしてガーディアンを、無我夢中で浄化してきた。自らの正義を貫き通してきた。だが、そう思っていたのはどうやら俺だけだったらしい。
目の前でジャッジが、螺子を巻かれた玩具のように淡々と言葉を羅列している。そこから滲み出る感情は怒りだった。ヤツは何をくっちゃべっている?俺は何故責められている?俺の成した事が全て悪だったとでも?馬鹿な!そんなはずはない。あいつらは当初の目的を見失い、ただ世界を存続させるために生きる道を選んだ存在へと成り下がったんだ。そらみろそっちの方がよっぽど悪じゃないか。
ジャッジを殺した。息絶える寸前まで俺を導いてくれた者の名を繰り返していた。お前のせいだ、お前のせいだと、憎悪を含んだ声色で繰り返していた。俺とナマエは世界を在るべき姿へと創り直しただけだというのに!黙れ!黙れ!消えろ!俺は最早動くことすらままならない物体をバットで幾度も叩き潰し、千切れた腹からはみ出た内臓を磨り潰した。ガリゴリと地面を擦りつけ、千切れた肉片を引き延ばす。四方八方が真っ白なこの部屋に赤色はよく目立った。無様に擦り切れた物体を見て途端に燃え上がるのは、果てしのない高揚感。ダムを決壊する勢いで溢れ出る昂ぶった感情に、口元が歪むのを抑えられない。ああ、最高だ!
しかし、腹の底からくつくつと湧き上がる愉快極まりない気分は、突如終止符を打たれた。大気を震わせ伝ってくる、動揺。無理もない。俺は今、己の意思でジャッジを見るに堪えないモノへと嬲り殺した。一部始終を見守ってくれたナマエには、それ相応の代償とやらを贈呈してやらなければ。

「ナマエ。俺はお前が此処まで導いてくれた事に感謝している。勿論、ジャッジではなく俺の手を取ってくれたことにもな」

振り向いてそう言えば、意識に反して足がある方向へと進みそうになった。どうやらナマエは俺の話に耳を貸す気はないらしい。スイッチを押せば何もかもが無となる。世界の終焉。強制的な幕引きだ。あれを押す事により一つの物語が終わりを迎える。そうはさせるものか。そんなのはあまりにつまらない。あまりに味気ない。折角創り直した世界を、ナマエにも堪能してもらわなければ意味がないというのに。
ぐっと足に力を込めれば、歩行は難なく制することができた。遠いようで近い所から恐怖とも取れる空気が流れ込んでくる。ぎちぎちと神経が、筋肉が、歩みを刻むために作用するが、プレイヤーとしての役割を全て終えたナマエに大した権限は残っていなく、その力はあえなく俺の眼前に崩れ落ちる事になる。

「なあナマエ。俺はこの新世界を、お前にも味わってほしいと思う」

返事を待たずに片足を軸にして身体を回転させ、バットを部屋の一角に振るい投げつけた。それは天井にぶち当たり、壁を砕き、境界に大穴を開ける。パラパラと崩れ落ちる零と壱の無機物。モザイク状の壁の向こう側は、ナマエのいる世界。俺の身体は、今や俺だけの意思で機能する。俺は自由になった。使命から解放されたナマエは、この世界のいちキャラクターとして生きていくに相応しい。彼女の引き摺り込まれてしまうであろう姿を想像して、とうとう我慢出来ずに声をあげて笑った。

- ナノ -