「う…うわ…わあああ」
「うるせーなぁ〜」
「だ、だって、これ!」
「ただの変異だっつーの!行くぞ、ついて来い!」

ついて来いというか、連れて行くって感じなのだけども。腕をがっちり掴まれてしまえば、わたしはただただ引きずられていくだけ…。

ついさっき、突然学校全体が真っ暗闇に飲み込まれた。何も見えない空間に、得体の知れない獄卒さんと二人きり。もうストレスフルで死んでしまいそう。
おそらく獄卒たちもびっくりな顔色の悪さになっているわたしに声をかけてきたのは、当然あの黄色の獄卒さんしかいない。でもわたしもまさか暗闇で腕を掴まれるだなんて露ほども思わなかったので、怖さのあまりその腕をブンブンと振り回し、なんとかそれを振り払おうと努めたのは仕方のないことなのだ。ミシッと骨が軋む痛みにいよいよ泣きたくなったわたしにかけられた冒頭のセリフ、それによってこの恐怖の原因をつくったのがあの獄卒さんであることに気がついたわけだけど。…彼は明かり一つない環境にもかかわらず、わたしの腕をギッチリと掴んだものだから、あなたの目は一体どうなっているんだと疑問を抱くのは至極あたりまえのことだろう。

「行くって、どこにですか…!」
「そこは適当にな!」
「い…いやだ…いやです…行きたくないです…」
「なんで?面白そーじゃん」
「まずですね、わたしには周りがどうなっているのか、さっぱりなんですよ…あ、あなたは見えているんでしょうけどもね!分かりますか、この恐怖!」
「さっぱりわからん!」
「でしょうね!……えっ、あっ」

前が見えない状況で、しかも無理矢理引っ張られて進まなければならないわたしの気持ちなんて、このいかにも頭が弱そうな獄卒さんには理解されないだろうとは思っていたけど、こうも即答されるともはや落胆よりも諦めが勝る。
はああ、と魂が口から逃げ出そうとしていたその直後、ガクンッと浮遊感に襲われる。この感じはたぶん階段。ああほら言わんこっちゃないのだ。わたしは落ちる、落ちるぞ…腕を掴む獄卒さん、あなたをも巻き込んでな!とかなんとか考えていたら、彼は丁度わたしの前に立っていたようで、背中と思われるところに直撃した。そのおかげで下まで落ちることはなかったけど、これって怒られるフラグなのかなあ…いやだ…わたし悪くないよ。

「なーにやってんだよ」
「へぇっ!?あっ痛い!」
「こっちのが早いな!よし行くぞぉー!」
「ひ、い、ああ〜!」

怒られることはなかったけど、どういうわけかさらなる浮遊感が、わたしを襲うのだ…!腕がぐいと引っ張りあげられて、肩がゴキリと嫌な音を立てた。この獄卒さんは、いろいろと雑すぎる。
ぼすん、顔が壁にぶつかって、足が浮く。そしてそのまま、ものすごい勢いで階段を駆け下り始めて。…は、はやい怖い!本当に、よくこんな暗闇で走り回れるなこのひと!?わたしは振り落とされないように、首のようなところに腕できつうくしがみついておいた。彼がどこに向かっているのかなんて、知ったところでわたしは逆らえそうにないので、もうなにも言うまい…。

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