「三角さん、三角さん、聞いて、ジョシュくんがね」
本日何度目の言葉だろうか。三角頭は呆れを通り越して憤りすら感じ得ていた。
なまえはジョシュアと仲睦まじい。それはクリーチャーしか存在しないサイレントヒルでの唯一の人間なのだから、仕方がないと言えば仕方がないのだろう。
けれども。そのような理屈は今はどうでもよかった。三角頭はただただ、なまえの口からジョシュアの名が紡がれることに憤慨していた。彼はジョシュアよりもぐんと体格が良いし、なんなら頼りになる存在だとまで自負していたから。できることなら、なまえの口から紡がれる名は総て己のそれであってほしい。しかしそのことを伝えようにも、三角頭には口がなかった。ではどうすればいいのか?
「……」
三角頭は考えに考え抜いて、思いついた。“言葉で伝えることができなくとも、行動で示せばよい”のだと!
そうと決まれば早かった。三角頭はなまえの頭を撫でようとゆうらりと腕を上げた。
「三角さん?どうしたの?」
なまえはこてんと首を傾げた。その問いかけに答えるように、三角頭は彼女の頭の上に無骨な手を乗せ、優しく撫ぜる。さらさらとした黒髪の感触が心地良い。なまえも撫ぜられ気持ちがいいのか目を細めた。
そのままゆるりと手を下へと下げてゆく。頭皮を撫で、耳を掠め、頬に手を寄せる。実を言うと、耳を掠めたのは計算のうちだった。なまえはびくりと肩を跳ねさせる。「わ、ご、ごめんね、くすぐったくって……」照れたように頬を赤らめるなまえのなんと可愛らしいこと!その様相に三角頭は鉈で真っ二つにされたくらいの衝撃を受けた。思わず握っていた鉈を地面へ落とす。ガアン!という金属音が辺り一面に響き渡り、なまえは飛び上がる。
「ど、どうしたの?びっくりした……」
三角頭は不安そうななまえの頬に再び手を触れる。そしてその弾力を楽しむかのように、頬を指で押す。むにむに。それはそう形容するのがぴったりな柔らかさだった。
なまえの身体はどこもかしこも柔らかく、中毒性を持ち合わせている。三角頭は自身とは明らかに異なる体躯に、ひっそりと腹の奥底で燻る感情を抱いた。
───否、現に“ひっそり”ではなかった。明確な燻りだった。三角頭はその正体知っている。そしてその感情を拭い去るためにこれから何をするべきなのかも、知っている、のだ。
三角頭はするりとなまえの輪郭をなぞると、桃色の唇に骨ばった指を押し当てる。ふにふにという触覚を楽んでいれば、ふとなまえが口を開ける。「三角さん……?」それは明らかな困惑。戸惑いの色を纏う双眸。けれども、ちらりと見えた赤い舌、小さな白い歯に、三角頭は理性を引き千切られた。
それからは早かった。三角頭を母指をなまえの咥内へ侵入させる。うっすらと空いていた歯と歯の間に指を突っ込み、力尽くで口を開けさせる。驚いたなまえは目をまん丸に見開いた。
「んあっ、ああう」
満足に喋ることができないなまえを横目に、三角頭の指が舌を捕らえる。手前から奥へ、はたまた奥から手前へぬりゅぬりゅとなぞりあげ、時たまに上顎を摩る。くすぐったいのか快感を得ているのか、なまえの細い肩がふるりと震えた。
気づけば示指と中指までもが咥内へと差し入れられていた。舌を挟み込み、前後にゆるゆると扱かれる。さらには頬粘膜までをも擦り上げられる。開けっ放しのなまえの口からは唾液が溢れ、顎を伝い服に滴り落ち痕を残していた。
「あっ、んっ、ん!」
やがて、抵抗のつもりなのかなまえは舌を動かして三角頭の指から逃れようとする。さらには彼の手を掴み、咥内から引き抜こうと試み始めるではないか!血管の浮き出る逞しい腕に寄せられたなまえの腕は白く、そして細かった。
力の差は歴然だ。どちらにせよ三角頭にとってはかわいい抵抗に違いなかった。
「あ、あう」抵抗を物ともせず、それどころか逃げ惑う舌をうまい具合に嬲られる。抗おうとするなまえは三角頭にとって興奮の要因にしかならなかった。
余計にこすこすと上顎を擦れられれば、どこかぞわぞわとしたものがなまえの腰から這い上がるのだ。それは苦しいだけに留まらぬ感覚だ。両の目からはじわりと涙が分泌され流れ落ちる。
涙をこぼすなまえを目にした三角頭は、何か思うことがあったのか咥内から指を引き抜く。そこから繋がる銀色の糸が、三角頭の目にはとても淫靡なもののように映った。
肩で息をしているなまえは生理的な涙に留まらぬそれを両手で拭っている。「な、なんでこんなこと、するの……」終いにはしゃくりあげるようにして泣かれてしまった。しかし、なまえのその様子は今の三角頭にとって扇情的なもののように窺えるのだ。
再び頬に手を寄せると、次は許さないと言わんばかりになまえは強く唇を引き結ぶ。それを目にした三角頭は、存外あっさりと咥内に指を入れることを諦めた。唇の弾力を楽しむ程度に指を押し付けると、次は耳へと視線を移す。
三角頭には一見して“目”がない。だが、なまえにとって彼との生活は長いものだ。従って、目は無くともどこに視線が刺さっているのかということは感じ取れるようになっており───
「ど、どこみてるの」
───なまえは両手で両耳を隠した。嫌な予感がしたのだろう。涙に溺れた双眸でキッと真っ向から三角頭を見つめる。そんななまえの様子は、三角頭にとっては微笑ましいものであり、ついつい意地悪をしてしまいたくなるのである。
三角頭はなまえの両手を耳から離すと、片手でまとめ上げる。「やっ、なに、なにするの」んー!と声を上げて腕から逃れようと奮闘するが、結果が伴うことはなく。なまえは半泣きだった。
「や、やめ、やめて」めそめそとそう訴えるものの、三角頭は首を縦に振ることはない。そしてなまえの耳に指を這わせた。
「ひっ!ん、んっ」
窪みに沿うようにして優しく撫でる。上下に擦られれば、なまえの肩はびくびくと跳ねる。すりすり、三角頭は容赦なく耳介をくすぐる。「やっ、やう、や!」嫌だと言うのは口先だけだ。なまえは身体から力が抜け、膝が笑う。そしてかくんと折れるその瞬間に、三角頭はなまえの両手を解放し、背に手を回して支えた。
「あ、ん、……」余韻にぴくぴく反応を示すなまえに、三角頭は大満足だった。そしてあわよくばこの先も、と思いなまえを地面に横たわらせようとした───のだが。
「……ちょっと。なにしてるの」
ジョシュアが面白くないような面持ちで現れたのだ。腕を組み、じとりと三角頭を睨め付ける。だが、あいにく三角頭に彼の眼光は効かなかった。
「……ジ、ジョシュくん……」なまえは膝がガクガクと震え、自力で立ち上がるのが不可能のように見受けられた。するとジョシュアはそんななまえの元に近づき、三角頭をぐいと押し退け彼女の顔を覗き込む。
「なまえさん、……!」大丈夫か、と訊ねようとしたのだが、蕩けきった表情を目にしたジョシュアはごくりと唾を飲み込んだ。三角頭が手を出したくなるのもわかると、思わずそう考えてしまったのだ。
だが、己がそれでどうするのだと、ジョシュアは自身を叱咤する。そしてここでなまえを守れるのは自分しかいないのだと、そう思ったのである。ジョシュアは口を開く。
「しばらくなまえさんに触るの禁止だから」
そのように言い放たれた言葉に三角頭は力なく地に膝をついたのだった。