わたしが今やるべきことは、まずあの男の人を探し出すこと。そしてパンツを返してもらって家までの帰り道を教えてもらう。でもそれを達成するには、わたしをここへ連れてきて助けてくれた恩人を見つけるのを優先するべきかもしれない。その人と出会えれば、きっとあの男の人がどこにいるのか教えてくれるはずだから。この建物がどれくらいの広さを持っているかはわからないけれど、できるだけ早く見つけたいところだ。

そこでわたしははたと思い至る。もしかしたら、目の前にいる三角頭が何か知っているのでは、と。意識を取り戻したときには既にこの部屋にいたのだから、その可能性は大いにありえるだろう。ちらりと視線をあげて様子を窺ってみると、彼はじいっと、静かに立ったままだった。しかし仮にわたしが疑問を投げかけて彼が答えてくれたとしても、それは信頼できるものなのだろうか。失礼なので口にはしないけれど、彼はとても怪しい風貌をしているのだ。ムキムキな身体に大きな鉈、そして三角の被り物。おまけに服は腰に巻く布のようなもので、上半身を露出しているさまはどうも目のやり場に困る。とにかく彼のその屈強な肉体から、わたしはいつ殺されてもおかしくない状況だといえる。
そういえばさっきは、わたしがこの部屋から出ようとしたときに腕を掴まれたのだけれど、それはどうしてなのだろうか。この部屋から出したくないのか、それとも彼にとって都合のいいことがあるのか。現状がこんなものだから、やっぱり三角頭はわたしのことを殺すつもりなのかもしれない、という考えがよぎってしまう。一緒にいるのは危険、と判断する方が賢明なのかなあ。

なにかあってからでは遅い。そういうことでわたしは意を決して、この部屋から逃げ出すことにした。3、2、1、……今だ!ぐっと足に力を入れて駆け出す。扉に鍵はかかっておらず、すんなり開いた(後で鍵がかかっていたら大変なことになっていたと冷や汗をかいた)。後はできるだけ遠くまで逃げられればいい。部屋の外はとても暗く、数メートル先すら見えない。でもこのままこの部屋にいたら、きっと死んでしまう。わたしは自分にそう言い聞かせて、震える足に鞭打った。かるく走りながら後ろを確認してみると、三角頭も部屋から出てきたのが見える。わたしを追いかけてくるようだ。でもみたところ、動きは遅いようで少し安心する。これでアスリート並の速さだったら、腰を抜かしていたところだ。ギイ、ギイ、と音がする。鉈を引きずっているのだ。

「……お、怒らせたのかも…!」

捕まればあの大きな鉈で真っ二つにされるに違いない。わたしは全力で走り出した。

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