わたしの二の腕を余裕で掴めるほど大きな手をしているんだなあ、なんて、考えてる場合ではなかった。

「ひぇっあ、わああああ!!」

やっぱりあの三角頭は作り物ではなかったのだ!数分前のわたしは混乱していたのだ、違いない。今ではどう見たって本物の、生きているものだとわかる。ぶんぶんと腕を思いきり振っても、相手は離す素振りを見せず、それどころかより一層力をこめて掴んでくる。骨がみしりと嫌な音をたてた。

「い、痛いよ痛いうわああん」

なにがなんだかわからなくて大声で泣いた。わたしは助からないんだ。このまま腕をもがれて、足ももがれて、ひとりさみしく死んでいくのだ。めそめそ涙を流していると、いつの間にか腕の違和感はなくなり、代わりに肩をかるく叩かれた。こちらを向けということなのだろうか?騙されるものか、顔をあげた瞬間に目潰しをして眼球をえぐり取るつもりなのかもしれない。頑なに俯くわたしに痺れをきらしたのか、顎を掴まれ無理矢理上を向かされる。目の前にいるのはやっぱり到底ヒトとは思えない大きな男で、それにまたじわりと視界がゆがんだ。

「…こ、ころすの、わたしを、…」

三角頭は何も言わない。ただゆっくりと頬をなでられ、わたしはその行為にひどく安堵した。身を任せるようにそっと目を閉じると三角頭の腕が背中に回り、安心させるかのように上下にさすられる。それによってわたしの涙はすっかり引いてしまったのだ。悪いヒトでは、ないのかもしれない───そう思った、のも束の間、段々と腕が降りていってわたしのお尻をなでたことにより、その考えは取り消されたのである。

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