嫌だ嫌だと叫んで暴れ出すナマエを、男は力ずくで捩じ伏せる。焦燥のあまり頭を地面に叩きつけると鈍い音がして、ナマエは動かなくなった。衝撃が強かったらしい。しかし意識を失った方が事を運びやすい。男はただただ焦っていた。はやく、はやくしないと、生贄を捧げないと!手に持つ刃物で目の前の少女を刺殺する。それだけでいい。しかし身体が動かないのだ。本当にこれでよかったのか、この見ず知らずの少女を───……。

ふと男は迷った。長年続いてきた伝統的ともいえる儀式を、もしかしたら自分が途切れさせてしまうのではないかと。本当は自分の娘を生贄に捧げなければならなかったのだが、男にはそれが出来なかった。愛しい娘を失うくらいなら、赤の他人である人間を殺せばいい。そう思っていたら行動に移していたのだ。
改めて目の前の気絶している少女を見つめる。床に強打した額には、じんわりと血が滲んでいた。ああ、痛々しい。鮮やかな赤色を目にして、男は段々と冷静になっていく。彼女には、取り返しのつかない事をしてしまったのかもしれない。

すると突如として不気味なサイレンが鳴り響いた。それは男を絶望させ、死へのカウントダウンの始まりでもある。べらりと部屋中の装飾が剥がれていき、赤黒く錆びれた内装へと変化していく。

「ッひい……!」

変化を終えると同時に、重い金属が地をこする音が聞こえてきた。ギイイ。ギイイ。ゆっくりとではあるが着実にこちらへ向かっている。男は立ち上がることができないほど慄いていた。部屋の奥からゆらりと赤い色をしたなにかが現れる。頭には巨大な三角の被り物をしていて素顔は見えない。彼の手には、響く音の元となる大鉈が握られている。迷うことなく真っ直ぐに男の方へ歩んでくる姿は、まさに処刑人のものだった。

「ゆ、ゆるしてくれ、わた」

必死に懇願する男に、三角頭は無慈悲にも大鉈を振り下ろす。頭から真っ二つに切断された身体は時折痙攣し、ピュウピュウと血を吹き出す。地面は瞬く間に赤く染まった。そして三角頭は、気絶しているナマエに視線を移した。

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