ウィーラーさんのたくましい背中がだんだんと小さくなって、やがて暗闇にまぎれて見えなくなった。わたしのために下着を調達してきてくれるだなんて、彼は本当にいいひとだと思う。顔を合わせるたびにお世話になっているような気がするけれど、わたしはなんのお返しもできていない。このままでは申し訳なさに押しつぶされそうだ。でもウィーラーさんはそれを望んでいないようすであったし、一体どうしたらいいのだろうか。ジョシュくんに相談でもしてみようかなあ。彼は頭がいいひとだから、きっとわたしには考えつかないような助言をしてくれるかもしれない。
それにしても、わたしもようやくパンツをはける日がやってきた。当たり前であることなのに、その当たり前から随分と遠ざかっていたものだから、妙な高揚を感じる。初めのころは違和感しかなかった、このスースーとした解放感。今となってはへんな話ではあるけれど、慣れたものだ。とはいっても、やっぱり下着を身につけられるということは嬉しいものだなあと思う。

「……んん?」

でも、待てよ。ウィーラーさんは確かに、わたしに下着を持ってきてくれるという約束をしてくれた。でも、その下着はどこで手に入れたものなのだろう。
ふと、外に出たときに見た閑散としていた町並みが脳裏をよぎる。道路にそって並ぶお店は閉店のオンパレードで、ガラスなんかもこなごなに割れてしまっているところがほとんどだったはずなのだ。だからお店で買えるわけがない。

「ま、まさかね……」

普段とってもお世話になっている人に対して、こんなことは考えたくないけれど。……もし、彼のお古を持ってこられたら。いいや、ウィーラーさんに限ってそんなことはないはず。あんなにも女心をわかっているひとだもの、きっと大丈夫。……大丈夫だよね?
心配になってもんもんとあれこれ悩んでしまうけれど、それはウィーラーさんにとって失礼なことに違いはない。わたしはそんな考えを吹き飛ばすように頭を振った。

「……う、ううん」

結局、わたしはウィーラーさんを信じて待つことしかできないのである。

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