ゴウゴウと妙な音が遠くから聞こえてくる。徐々に意識が覚醒し、うっすらと開けた目には灰色が広がっていた。冷たい。どうやらナマエは床に横たわっているようだった。身じろぎしようと身体を捻ると、四肢が動かない。手足が縛られているのだ。そこで漸く自分の置かれた現状を理解した。

「目が覚めたかい」

声の方へ視線をやると、男が床に座っている。背中を大きな四角い箱のような物に預けており、それはこの部屋に四つあるようだ。ナマエはそれらに囲まれるように、中心に横になっていた。

「すまない、すまない」

男は涙を流しながらそう言った。泣きたいのはこちらの方だとナマエは思う。一体どうして、誘拐された被害者ではなく加害者が涙するのか、ナマエには到底理解できなかった。罪を犯した罪悪感からなのだとしたら、実行しなければよかっただけの話なのだ。わからない。ナマエは困惑するしかなかった。

「…泣くくらいなら、家に帰してください」
「それは無理なんだ!」

ナマエがそう言うと、先程までめそめそと泣いていた男は激昂し立ち上がる。そうしてそのまま早足でナマエの元へ近づき、腕を掴んだ。男の変わりようにナマエはぎょっと目を見張り後退ろうとしたが、如何せん力が強く、動けそうにない。これから自分がどうなってしまうのか、恐怖に震えた。

「っや、やめて、はなして!」
「君には、娘の代わりに、なってもらわないと…!」

男がナマエに抱きつく。ナマエは上擦った声を上げてとうとう身体をがたがた震わせ始めた。するりと太ももを撫でられ、冷たいものが触れる。なにかと思った次の瞬間には、下着が落ちる感触がした。血の気が引く。嫌な予感しかしなかった。ハア、と熱い息が耳にかかって、いよいよナマエは頭が真っ白になった。

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