「……え?ごめんナマエお姉さん、今なんて言った?」

もじもじと俯いて、恥じらいながら制服のスカートの裾を弄るナマエお姉さんは、頬を桃色に染めながら「も、もう一回言わせるの……?」と言った。いいやこれは別に嫌がらせとかそういう類のものではないのだ。ただぼくは、ナマエお姉さんが予想を遥かに上回る事を口にして、瞬時には理解できないような小難しい言葉を溢したので、今一度真意を訊ねようと聞き返しただけなのである。

「…だからね、あの……ぱ、ぱんつ探しに、行こうかなあって」

やはりぼくの耳はおかしくなんてなっちゃいなかった訳だ。世間では下着を身につけるのは常人ならば普通の事であり、逆にそれを着ない人間の方が異端扱いを受ける風潮にある。だからナマエお姉さんが下着を探しに行こうと思うのも当然の事だというのに。ぼく達が初めて会った時からナマエお姉さんは下着を身につけていなかったから、それがデフォルトであるという何とも奇妙な先入観を持っていたらしい。……馬鹿馬鹿しいと思う反面、申し訳なさを感じざるをえない。ナマエお姉さんはいわゆる“普通”の女の子に戻ろうとしていた。

しかしながら彼女に素直にいってらっしゃいと返答できないぼくの頭には、とある不安要素が浮上している。それはこのサイレントヒルじゃあ色々なクリーチャーから恐れられているあいつに関する事だ。誰の目から見てもあいつはナマエお姉さんを目に余るほど可愛がっている。過剰なスキンシップをぼくの目の前で披露された時は、どうだ羨ましいだろうと言わんばかりの態度で柄にもなくイライラした。誤解のないように言及しておくけど、ナマエお姉さんはあいつの愛撫を受け入れていない。いやいやと抵抗しても上手い事丸め込まれて結局身体を触られているだけなのである。あいつはそれを気にした様子なんか見せないけど。

閑話休題。あいつがナマエお姉さんを気に入ってるのは勿論下着を身につけていない事を含めての事だ。だからもし仮にナマエお姉さんが下着を手に入れた暁には、あいつはきっと……。

「ジョシュくん、時間が惜しいから、わたし行くね」

ナマエお姉さんの瞳には強い意志が宿っていた。多分ぼくが何を言っても、彼女はそれを曲げる事はないのだろう。ただ全てが終わった時、ぼくが責められる事のないように、ぱたぱたと走り去るナマエお姉さんの背中に向かって「どうなっても知らないからね」とだけ言葉を投げておいた。

───そう、これからナマエお姉さんの身にどんな災厄が降りかかろうとも、こればっかりはぼくにはどうしようもない事であり、そしてこれが忠告はしておいたという証拠にもなり得るのである。

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