とにかく霧が濃くて、わたしは足元にも周囲にも注意しなければならなかった。どのくらい歩けば家に着けるかなあと考えていたら、濃霧の中でかろうじて読める看板を見つけた。目をこらして文字を目で追う。

「ようこそ、サイレントヒルへ」

ふうん、じゃあもう少し行けば、そのサイレントヒルからぬけられるということかな。例えいくら時間がかかっても、歩き続けていればいつかは家に着くのだから。そう前向きに考えれば、きっと頑張れる。

さあ、家に帰ろう。

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そんなわたしの淡い期待は、見事にはじけ飛んだ。道が、ないのだ。道路はある、しかしその先がない。残っているのはくずれ落ちたような形跡。進めない。足を一歩踏みだしてみると、パラパラと音をたてて小石がずうっと下まで落ちていく。ぞっとした。底は霧にうもれて見えない。どれくらい深いのかもわからない。どうして道がくずれているのかもわからない。ウィーラーさんが間違えてしまったの?まさか。だって彼はここを故郷だと言った。だからこの街の地理にはくわしいはずだもの。どうすればいい?わたしは、いったいどうすればいいの?わからない。わからない。ああ、もう。パニックになると泣いてしまう、わたしの悪い癖だ。昔からそう。視界がぼやけてきた。目があつい。ねえ、わたしどうしたらいいのかな。こんなときは、誰がたすけてくれるの?なににたよればいいの?てをさしのべてくれるひとはいないの?

わたしのきゅうせいしゅは、どこにいるの?

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